ARTISTS
齋藤 春佳
油画・インスタレーション
WORKS & COMMENT
作品&コメント
《飲めないジュースが現実ではないのだとしたら私たちはこの形でこの世界にいないだろう(部分)》2016年
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目で見るものを作ることが多いです。食べるもの、聞くもの、触るものなどを作る時もあるけれど、作品を作る時は、絵も、空間を使った作品も、殆ど目で見て知覚されることを想定しています。
画面の中にあるジュースはイメージです。でも見えるそのジュースは存在する。地球から見える星とか。山の稜線とか。水平線とか。触れないほど遠くだからその形でここから見える。山の中に入ったら山の形は見えない。目で見ることによってだけ存在するものは普通にある。
つまり、〝イメージというものが非現実なのだとしたら私たちはこの形でこの世界にいない〟と言えます。見ることによってだけ会得可能な現実はある。しかしなおかつ、見えても1秒後には見えない。時間が過ぎて消えちゃう世界がいやでその世界に居たい。その願いは既存の世界の仕組みの中では解消する方法がない。そこで、作品が空間の仕組みや認識の仕組みを変えたり、別の方法への道筋となりうるのではないか。世界に実際に効くと信じるから、私は作ることを何度も新しく生活の中でやれるのだと思います。
画面の中にあるジュースはイメージです。でも見えるそのジュースは存在する。地球から見える星とか。山の稜線とか。水平線とか。触れないほど遠くだからその形でここから見える。山の中に入ったら山の形は見えない。目で見ることによってだけ存在するものは普通にある。
つまり、〝イメージというものが非現実なのだとしたら私たちはこの形でこの世界にいない〟と言えます。見ることによってだけ会得可能な現実はある。しかしなおかつ、見えても1秒後には見えない。時間が過ぎて消えちゃう世界がいやでその世界に居たい。その願いは既存の世界の仕組みの中では解消する方法がない。そこで、作品が空間の仕組みや認識の仕組みを変えたり、別の方法への道筋となりうるのではないか。世界に実際に効くと信じるから、私は作ることを何度も新しく生活の中でやれるのだと思います。
I mostly create works as pieces of visual art. Sometimes I create works representing tasting, such as food, as well as listening or touching, but when I create, I usually expect my work will be appreciated visually, regardless of the distinction between paintings or spatial works.
The juice in this painting is an image. But the juice you are looking at really exists. The stars wee see from the earth, the ridges of mountains, the horizon and other phenomena are so distant and out of reach. That’s why we can grasp their forms as they are. We cannot grasp the entire shape of the mountain at once, because we are on it. In general, the existence of something depends on our point of our perception.
In other words, if images were unreal, we would not exist in this world perceiving our shapes and forms. Reality is perceived by seeing. Yet, we lose track of our image in a fraction of a second. I want to stay in a world where images remain as they are because I don’t like a world where images vanish in the course of time. My prayer cannot be answered in the existing structure of the world. Therefore, I wonder if my works may change how we perceive the structure of space or not. They may provide us a means to another way. Because I believe my works are an effective way to answer my question, I can create my works anew over and over throughout the course of my life.
The juice in this painting is an image. But the juice you are looking at really exists. The stars wee see from the earth, the ridges of mountains, the horizon and other phenomena are so distant and out of reach. That’s why we can grasp their forms as they are. We cannot grasp the entire shape of the mountain at once, because we are on it. In general, the existence of something depends on our point of our perception.
In other words, if images were unreal, we would not exist in this world perceiving our shapes and forms. Reality is perceived by seeing. Yet, we lose track of our image in a fraction of a second. I want to stay in a world where images remain as they are because I don’t like a world where images vanish in the course of time. My prayer cannot be answered in the existing structure of the world. Therefore, I wonder if my works may change how we perceive the structure of space or not. They may provide us a means to another way. Because I believe my works are an effective way to answer my question, I can create my works anew over and over throughout the course of my life.
《あなたが今これを見ているということは…》2017年
《石の自由意志》2017年
《影の形が山》2017年
Profile
プロフィール
RELEASE
おもな作品発表歴
- 2009
- 「act」(新宿眼科画廊/東京都)
「今はもう今はなさそう」(東京造形大学内ギャラリー node/東京都)
- 2010
- 「via art 2010」(シンワアートミュージアム/東京都、銀座)
「今、魔物、ノコギリ、リコーダー、あたし、舌、滝、京橋、しろつめくさ、酒場、ばつ、つば、バラ、落馬、バラバラ、乱気流、後ろ、六畳一間、まとも、もしもし、しょうが焼き、霧吹き、消え、絵、遠心力、クレーター、あなた、多面体、今」(GALLERY b. TOKYO/東京都)
- 2011
- 「アートが山をのぼること」(清澄寺・釈迦寺/千葉県)
「四郎かマチルダ」(現代HEIGHTS/東京都)
- 2012
- トーキョーワンダーウォール2011都庁「宝石と眼球が地中で出会ってもまっくら」(東京都庁/東京都)
TWS-Emerging2012「思い出せる光景と思い出せない光景を見た地球から見える星も見えない星も公転しあっている、地球含め」(トーキョーワンダーサイト本郷/東京都)
- 2013
- 「乱反射」(港食堂&ゲストハウスlit/岡山県)
「たおれた花器の水面下ではもう一度同じ花が水を吸い上げている」(実家JIKKA/東京都)
- 2014
- 第2回「メタモルフォーシス展」(ギャラリー82/長野市)
現代美術シーン6「記憶の地層」(小海町高原美術館/小海町)
- 2017
- 「飲めないジュースが現実ではないのだとしたら私たちはこの形でこの世界にいないだろう」(埼玉県立近代美術館/埼玉県)
COMMENTARY
学芸員の解説
日本語テキストで読む
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重なるけれど混ざらない魅力
齋藤春佳の作品は、いくつもの【層】を感じさせる。絵の具を何度も重ねるというような物理的な層ではなく、さまざまなモチーフが視覚的に重なり合うように見えるのが魅力的だ。息を吹きかけたら、風が巻き起こって作品のなかが動き出すのではないかと期待してしまう。
目の前に現れる色彩は宙に浮かんでいるようで、作品から飛び出してきたようにも自分が作品のなかに飛び込んでしまったようにも感じられる。それは誰かの思い出話を聞いているうちに、その世界に自分が紛れ込むような感覚にも近い。相手の記憶や感覚が自分と行き来する面白さ、しかし確実な何かをつかむことはできないもどかしさを、彼女自身が普段から感じているのだろう。
2017年に発表した映像インスタレーション《影の形が山》は、まさにそういった記憶をテーマにした作品だ。彼女が祖母から伝え聞いた記憶、その実際のできごとに干渉することはできないけれど、伝え聞いた思い出を記憶して彼女が作品にしたものを、私たちは鑑賞する。
当事者が話すときにはそのすべてを正確には伝えきれず、どうしてもフィルターがかかる。それをさらに伝えるときにまたフィルターが重なり、実像はぼやけていく。フィクションともいえるその世界は、それでも確かに現実の作品として存在して、魅力を放っている。その魅力を、また誰かに伝える。そうするともう彼女すら知らない場所で、作品は広がっていく。もしかしたらそれが本来の目的なのだろうか。
今回のシンビズム展で齋藤は須坂版画美術館入口正面のスペースを充てられた。会場の天井を見上げる彼女の横顔を思い出す。そのときは何もなかった空間に、彼女にしか見えない作品が広がっていくのがわかった。この文章を書いている今、まだ存在しないその作品を見上げることを楽しみにしている。そしてそれを目にしたら、きっとその後何度会場を訪れても、そのときはもう存在しないその作品を思い出すだろう。それもまた楽しみだ。
目の前に現れる色彩は宙に浮かんでいるようで、作品から飛び出してきたようにも自分が作品のなかに飛び込んでしまったようにも感じられる。それは誰かの思い出話を聞いているうちに、その世界に自分が紛れ込むような感覚にも近い。相手の記憶や感覚が自分と行き来する面白さ、しかし確実な何かをつかむことはできないもどかしさを、彼女自身が普段から感じているのだろう。
2017年に発表した映像インスタレーション《影の形が山》は、まさにそういった記憶をテーマにした作品だ。彼女が祖母から伝え聞いた記憶、その実際のできごとに干渉することはできないけれど、伝え聞いた思い出を記憶して彼女が作品にしたものを、私たちは鑑賞する。
当事者が話すときにはそのすべてを正確には伝えきれず、どうしてもフィルターがかかる。それをさらに伝えるときにまたフィルターが重なり、実像はぼやけていく。フィクションともいえるその世界は、それでも確かに現実の作品として存在して、魅力を放っている。その魅力を、また誰かに伝える。そうするともう彼女すら知らない場所で、作品は広がっていく。もしかしたらそれが本来の目的なのだろうか。
今回のシンビズム展で齋藤は須坂版画美術館入口正面のスペースを充てられた。会場の天井を見上げる彼女の横顔を思い出す。そのときは何もなかった空間に、彼女にしか見えない作品が広がっていくのがわかった。この文章を書いている今、まだ存在しないその作品を見上げることを楽しみにしている。そしてそれを目にしたら、きっとその後何度会場を訪れても、そのときはもう存在しないその作品を思い出すだろう。それもまた楽しみだ。
綿貫 薫 (中野市立博物館)
In the attractiveness of her overlapping of unblended colors
I feel that various motifs look as if they visually overlap each other, like layers, in the works of SAITO Haruka.
It must be fun for her to exchange memories and feelings through dialog with others yet, at the same time, I suppose, she might experience continual frustration because of her inability to grasp something concrete.
Her audiovisual installation, “The Shape of the Shadows are Mountains,” presented in 2017, indeed deals with such memories and feelings as her theme. She incorporates memorized stories handed down from her grandmother in this installation.
At this exhibition of Shinbism, SAITO was assigned a space in front of the visitors’ entrance at the Suzaka Hanga Museum. It is also intriguing to imagine that only a glance of her work at this exhibition will incite viewers, who visit the museum after the completion of this exhibition period, to remember her work vividly anytime, though it is no longer there.
It must be fun for her to exchange memories and feelings through dialog with others yet, at the same time, I suppose, she might experience continual frustration because of her inability to grasp something concrete.
Her audiovisual installation, “The Shape of the Shadows are Mountains,” presented in 2017, indeed deals with such memories and feelings as her theme. She incorporates memorized stories handed down from her grandmother in this installation.
At this exhibition of Shinbism, SAITO was assigned a space in front of the visitors’ entrance at the Suzaka Hanga Museum. It is also intriguing to imagine that only a glance of her work at this exhibition will incite viewers, who visit the museum after the completion of this exhibition period, to remember her work vividly anytime, though it is no longer there.
Watanuki, Kaoru (Nakano.city.Museum )
EXHIBITION MUSEUM
開催会場の情報
須坂版画美術館
北信エリア
- 住所
- 〒382-0031
長野県須坂市大字野辺1386-8 (須坂アートパーク内)
- 電話番号
- 026-248-6633
- 開館時間
- 9:00~17:00
- 閉館日
- 水曜休(祝日除く)
「シンビズム2 -信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち-」会期中は開館時間、閉館日が通常と異なっております