ARTISTS
高木 こずえ
写真
WORKS & COMMENT
作品&コメント
《プレリュード 名前も忘れた人》2018年
日本語テキストで読む
Read in English Text
プレリュード
ある光景が、撮影されてネガになる。
ネガは、スキャンされて画像になる。
画像は、描かれて絵画になる。
絵画は、撮影されてデータになる。
データは、彫られて版木になる。
版木は、刷られて版画になる。
フランツ・リストの交響詩、レ・プレリュードは、「死への前奏曲」なのだそうだ。
人生は、死によって始まる知られざる歌に対する一連の前奏曲ではないか、と標題にかかげられ、アルフォンス・ド・ラマルティーヌの詩の一節にもとづくとされている。
死が、未来ではなく過去にあるとしたら、写真に撮られた過去の光景から何かを生み出していくことは、死を見つめながら、その逆方向の原初へとむかっていくことで、その軌跡のうえに生まれ出たものたちの連なりもまた、今という刻々と立ち現れる生の地点から眺めたとき、「死への前奏曲」となるかもしれない。
ある光景が、撮影されてネガになる。
ネガは、スキャンされて画像になる。
画像は、描かれて絵画になる。
絵画は、撮影されてデータになる。
データは、彫られて版木になる。
版木は、刷られて版画になる。
フランツ・リストの交響詩、レ・プレリュードは、「死への前奏曲」なのだそうだ。
人生は、死によって始まる知られざる歌に対する一連の前奏曲ではないか、と標題にかかげられ、アルフォンス・ド・ラマルティーヌの詩の一節にもとづくとされている。
死が、未来ではなく過去にあるとしたら、写真に撮られた過去の光景から何かを生み出していくことは、死を見つめながら、その逆方向の原初へとむかっていくことで、その軌跡のうえに生まれ出たものたちの連なりもまた、今という刻々と立ち現れる生の地点から眺めたとき、「死への前奏曲」となるかもしれない。
Prélude
A scene is rendered onto negatives by photographing.
Negatives become images by scanning.
Images become paintings by painting.
Paintings become data by photographing.
Data becomes printing blocks by carving.
Printing blocks become wood prints by printing.
From what I hear, Franz Liszt’s symphonic poem, Les préludes is “the Preludes to death.” Les préludes tells us, according to comments left by Franz Liszt, life may be a series of preludes to an unknown Hymn originating from death, and it is said to be based on a passage from a poem composed by Alphons de Lamartine.
If death is a past event rather than a future one, and if one creates something new from the photographed scenes of the past, he or she would, while looking at death, take the opposite way toward the origin. Whatever things are born sequentially on a track of events, if one observes them from their current perspective which appears moment after moment, they might become “the Preludes to death”
A scene is rendered onto negatives by photographing.
Negatives become images by scanning.
Images become paintings by painting.
Paintings become data by photographing.
Data becomes printing blocks by carving.
Printing blocks become wood prints by printing.
From what I hear, Franz Liszt’s symphonic poem, Les préludes is “the Preludes to death.” Les préludes tells us, according to comments left by Franz Liszt, life may be a series of preludes to an unknown Hymn originating from death, and it is said to be based on a passage from a poem composed by Alphons de Lamartine.
If death is a past event rather than a future one, and if one creates something new from the photographed scenes of the past, he or she would, while looking at death, take the opposite way toward the origin. Whatever things are born sequentially on a track of events, if one observes them from their current perspective which appears moment after moment, they might become “the Preludes to death”
NEWS
高木 こずえの関連情報
2018
12/09
(日)
Profile
プロフィール
高木 こずえTAKAGI Cozue
写真
- 1985
- 長野県生まれ
- 2007
- 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業
- 2009
- 『MID』『GROUND』(いずれも赤々舎)刊
- 2011
- 『SUZU』(信濃毎日新聞社)刊
- 2015−2016
- 公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修員としてアメリカに滞在、現在は長野県在住
【収蔵】
府中市美術館(東京都)
川崎市市民ミュージアム(神奈川県)
東京工芸大学(東京都)
長野県信濃美術館(長野県)
amana photo collection(東京都)
府中市美術館(東京都)
川崎市市民ミュージアム(神奈川県)
東京工芸大学(東京都)
長野県信濃美術館(長野県)
amana photo collection(東京都)
AWARD
おもな受賞歴
- 2006
- EPSON Color Imaging Contest 準グランプリ受賞、キヤノン写真新世紀グランプリ受賞、森山大道賞受賞
- 2009
- VOCA展2009 府中市美術館賞受賞
- 2010
- 第35回木村伊兵衛写真賞受賞
第15回信毎選賞受賞
RELEASE
おもな作品発表歴
- 2007
- 「高木こずえ個展[laboratory1:]」(東京都写真美術館)
- 2009
- 「VOCA展2009 現代美術の展望―新しい平面の作家たち」(上野の森美術館/東京都)
- 2010
- 「高木こずえ−MID−」(第一生命南ギャラリー/東京都)
「高木こずえ−GROUND−」(東京日本橋高島屋美術画廊X/東京都)
- 2011
- 「ネクスト:信州新世代のアーティスト展2010」(ホクト文化ホール/長野市ほか)
個展「SUZU」(ホクト文化ホールギャラリー/長野市)
- 2012
- 「高木こずえ写真展-SUZU-」(諏訪市美術館/長野県)
- 2013
- 個展「琵琶島カレイド」(AKAAKA/東京都)
- 2014
- 個展「琵琶島」(キヤノンギャラリーS/東京都)
「諏訪-この土地と人へのまなざし-」(諏訪市美術館/長野県)
- 2017
- 「鍵と穴―彫刻と写真の界面vol.1高木こずえ」(ギャラリーαM/東京都)
COMMENTARY
学芸員の解説
日本語テキストで読む
Read in English Text
写真というコト−写真のない写真家の展示
自分が撮った写真をもとに作品制作を行う。写真とはモノ(作品)ではなくコト(制作行為)―これが高木の姿勢である。
彼女は自身が反応したものを撮り、デジタルでコラージュし、そのうえで、「どうしてそうしたのか?」を執拗に考える。一般には感覚的行為として説明しにくいものをそれまでの作業よりはるかに長い時間をかけて内省する。作業はネガフィルム撮影→デジタル加工→印画紙での出力によって進められてきた。
しかし2012年にはじめた《琵琶島》は、デジタルカメラで撮影し、インクジェットで出力した。結果、1~2年でシリーズ展開する高木にとって《琵琶島》は異例の長期にわたる作品群となり、現在も終わってはいない。なぜ終われないのか、その理由をも求めて制作工程の再構築を試みながら新作《プレリュード》に挑んでいる。
《琵琶島》は、ネガや暗室での現像といった「潜」(ものやイメージが隠されている場所)を経ることがなかった。そこで《プレリュード》では、「実」(目に見え、手に触れられるもののある場所)と、「虚」(デジタルデータのように実体のない概念の場所)に、「潜」を加えた3つの場を行き来する工程を組んだ。具体的には、次のように油絵、木版画の制作を行う。
写真を撮る(ネガフィルムによるスナップショット)→スキャンする(フィルムのもつ情報をデジタルデータに変換する)→絵を描く(データになった写真イメージを油絵に描きおこす)→写真を撮る(描いた絵をデジタルカメラで撮影)→版木を彫る(PC上で絵柄を解体して再構成し版に彫る)→版画を刷る(終)
作家も写真は本来、直接コントロールできないものと認識し、そこに魅力を感じている。しかし、一方でこの再構築は、《琵琶島》で顕在化した衣装づくりや油絵制作といった手仕事でつくり出す「実」にも重きを置いている。素材は2015年2月から1年間、ポートランドでの日常を撮りためたスナップ写真。その表出の形は写真家による「油絵」と「木版画」という異色の形となる。
彼女は自身が反応したものを撮り、デジタルでコラージュし、そのうえで、「どうしてそうしたのか?」を執拗に考える。一般には感覚的行為として説明しにくいものをそれまでの作業よりはるかに長い時間をかけて内省する。作業はネガフィルム撮影→デジタル加工→印画紙での出力によって進められてきた。
しかし2012年にはじめた《琵琶島》は、デジタルカメラで撮影し、インクジェットで出力した。結果、1~2年でシリーズ展開する高木にとって《琵琶島》は異例の長期にわたる作品群となり、現在も終わってはいない。なぜ終われないのか、その理由をも求めて制作工程の再構築を試みながら新作《プレリュード》に挑んでいる。
《琵琶島》は、ネガや暗室での現像といった「潜」(ものやイメージが隠されている場所)を経ることがなかった。そこで《プレリュード》では、「実」(目に見え、手に触れられるもののある場所)と、「虚」(デジタルデータのように実体のない概念の場所)に、「潜」を加えた3つの場を行き来する工程を組んだ。具体的には、次のように油絵、木版画の制作を行う。
写真を撮る(ネガフィルムによるスナップショット)→スキャンする(フィルムのもつ情報をデジタルデータに変換する)→絵を描く(データになった写真イメージを油絵に描きおこす)→写真を撮る(描いた絵をデジタルカメラで撮影)→版木を彫る(PC上で絵柄を解体して再構成し版に彫る)→版画を刷る(終)
作家も写真は本来、直接コントロールできないものと認識し、そこに魅力を感じている。しかし、一方でこの再構築は、《琵琶島》で顕在化した衣装づくりや油絵制作といった手仕事でつくり出す「実」にも重きを置いている。素材は2015年2月から1年間、ポートランドでの日常を撮りためたスナップ写真。その表出の形は写真家による「油絵」と「木版画」という異色の形となる。
伊藤 羊子 ((一財)長野県文化振興事業団)
Photographs as Acts
An Exhibit by a Photographer without Photographs
TAKAGI creates her arts based on photographs taken by herself. For TAKAGI, photographs are not just objects, but acts to create art. This is her stance on photographs.
She shoots objects which interest her and makes digital collages out of the photos. Then, she spends considerable time asking herself why she did so.
In her new works, TAKAGI tries to reconstruct her creative process, going back and forth among three different places including “jitsu,” the tangible world, “kyo,” or notional entities like digital date, and “sen,” the spiritual world where objects and images are hidden. To create her original “handicrafts” from her photographs, she ventures on to painting and wood block printing.
TAKAGI creates her arts based on photographs taken by herself. For TAKAGI, photographs are not just objects, but acts to create art. This is her stance on photographs.
She shoots objects which interest her and makes digital collages out of the photos. Then, she spends considerable time asking herself why she did so.
In her new works, TAKAGI tries to reconstruct her creative process, going back and forth among three different places including “jitsu,” the tangible world, “kyo,” or notional entities like digital date, and “sen,” the spiritual world where objects and images are hidden. To create her original “handicrafts” from her photographs, she ventures on to painting and wood block printing.
Ito, Yoko (Nagano Prefectural Agency for Cultural Promotion)
EXHIBITION MUSEUM
開催会場の情報
須坂版画美術館
北信エリア
- 住所
- 〒382-0031
長野県須坂市大字野辺1386-8 (須坂アートパーク内)
- 電話番号
- 026-248-6633
- 開館時間
- 9:00~17:00
- 閉館日
- 水曜休(祝日除く)
「シンビズム2 -信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち-」会期中は開館時間、閉館日が通常と異なっております