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越 ちひろに関する学芸員テキスト
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ワンダーの空気感
越ちひろの画面は、独特の色彩表現により構築された幾多もの色が形となり、折り重なる。輪郭線が内側に湾曲した菱形は、光輝を表す記号表現であり、数が増えるほどその輝きを増していく。〝キラキラ〟と呼ばれるこの表現は、カラフルな星が瞬く宇宙空間のごとく拡張し続け、キャンバスを無視していく。そして、血肉湧き踊る生命観を表現した躍動の色、パッションピンクは作家の存在感そのものを象徴し、ビビットな極彩色が人の色彩感覚を優しく刺激する。
濃淡や筆使いにより、擦れや暈し、滲みといった技法が画面に同居し、偶然に起きた滴りまでもが溶け込む。色や形、異種の技法が層をなす空間は、鮮明さと儚さを併せ持ち、水の揺らめく水槽を覗き込むような、また窓の向こう側に別次元の景色が広がっているような、不思議な感覚を引き起こす。このパラレルな景色が放つ空気感は、人の潜在意識へと語りかける。
心象風景は日常のなかで叙情的にフラッシュバックする。光や空気の姿形を見ることはできないけれども、人は感覚的にその存在を知っている。越ちひろの芸術表現〝ワンダー〟は見えない存在の空気感に近い。それは懐かしさや憧れであり、また好奇心の対象であり、同時に現代の不可解さでもある。千曲市で生まれ育ち、現在もそこで活動を続ける作家の内に潜む地域性なるものであり、長野県が有する日本の原風景を匂わす空気感の表出なのか。壁画や公開制作という、常に新しい人や場所と関わり合う、流動的な場の空気により作られた現代絵画の新スタイルが放つソーシャルな雰囲気なのか。
〝ワンダーの空気感〟は、まさに現代美術における〝今〟の様相といえる。それは公共性、社会性を意識した現代絵画として、新しい空気をまとう。作家の一挙一足、描画の一筆一筆に込められた芸術性、思考は完成形を凌駕し、結果へ導かれるための過程に眼を向けたとき、現代美術は常に感覚を一新させ、個の作家の存在感を強めていく。
濃淡や筆使いにより、擦れや暈し、滲みといった技法が画面に同居し、偶然に起きた滴りまでもが溶け込む。色や形、異種の技法が層をなす空間は、鮮明さと儚さを併せ持ち、水の揺らめく水槽を覗き込むような、また窓の向こう側に別次元の景色が広がっているような、不思議な感覚を引き起こす。このパラレルな景色が放つ空気感は、人の潜在意識へと語りかける。
心象風景は日常のなかで叙情的にフラッシュバックする。光や空気の姿形を見ることはできないけれども、人は感覚的にその存在を知っている。越ちひろの芸術表現〝ワンダー〟は見えない存在の空気感に近い。それは懐かしさや憧れであり、また好奇心の対象であり、同時に現代の不可解さでもある。千曲市で生まれ育ち、現在もそこで活動を続ける作家の内に潜む地域性なるものであり、長野県が有する日本の原風景を匂わす空気感の表出なのか。壁画や公開制作という、常に新しい人や場所と関わり合う、流動的な場の空気により作られた現代絵画の新スタイルが放つソーシャルな雰囲気なのか。
〝ワンダーの空気感〟は、まさに現代美術における〝今〟の様相といえる。それは公共性、社会性を意識した現代絵画として、新しい空気をまとう。作家の一挙一足、描画の一筆一筆に込められた芸術性、思考は完成形を凌駕し、結果へ導かれるための過程に眼を向けたとき、現代美術は常に感覚を一新させ、個の作家の存在感を強めていく。
鈴木 一史 (山ノ内町立志賀高原ロマン美術館)
An Atmosphere of Wonder
In the paintings of KOSHI Chihiro, various colors overlap and take shape in her unique way of expression - they ceaselessly expand like starlit cosmic space beyond the canvas. Her use of passion-pink, rendered as if dancing, symbolizes the lively presence of this artist with her rich, vivid colors that stimulate the viewers’ senses.
The “Wonder,” - her artistic representation, somehow conjures the atmosphere as a kind of an invisible existence. It arouses feelings such as familiarity and longing, as well as curiosity and, at the same time, it embodies the incomprehensibility of contemporary art. It may even represent the primary color encompassing the artist, who was born and raised in the region of Nagano Prefecture. It might be due to the especial atmosphere of Nagano Prefecture, which evokes images of indigenous Japanese landscape
The “Wonder,” - her artistic representation, somehow conjures the atmosphere as a kind of an invisible existence. It arouses feelings such as familiarity and longing, as well as curiosity and, at the same time, it embodies the incomprehensibility of contemporary art. It may even represent the primary color encompassing the artist, who was born and raised in the region of Nagano Prefecture. It might be due to the especial atmosphere of Nagano Prefecture, which evokes images of indigenous Japanese landscape
Suzuki, Kazufumi (Shigakogen Roman Museum)