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学芸員テキスト詳細
山上 渡に関する学芸員テキスト
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プロローグ Prologue
山上はアーティストとしてきわめて異色な経歴を持つ。馴れ合いの日々を嫌い、15歳から日本、海外で放浪を続けた。放浪の旅では、今夜の寝床、明日の飯に困るという大ピンチを乗り切るために即興で作品を制作し、ときに大道芸などで食いつないだという。苦境を乗り切るために、自分に何ができるのかを冷静に見つめ行動しただけだというが、たくましさは半端ではない。
ある日、南米の少数民族の言葉と自分の名前である「ワタル」が、「つなげる」という日本語と同義語であることを知って、世界はつながっていると感じたという。それ以来「世界のつながり」は彼の信条となった。日本に戻ってからは、神社仏閣をめぐりながら放浪を続け、精神世界にものめり込んだ。
その後、信州に戻り粘菌の美しさと生態にのめり込んで山に棲んだ。ある日、仲間の壮絶な最期に向き合うこととなったが、その空間は荘厳な美に充たされていたという。このことは、山上の野性にも似た感性を突き動かし、制作に没頭させた。生み出したものは鎮魂と賛美であるが、自分の死も同様に美しくありたいとの願いを込めているかのようだ。
今回、山上はこれまでの表現を大きく変化させるつもりでいる。本人のコメントにあるように「分断」をコンセプトとした劇場をつくるのである。山上は、これについて、作品はあくまで「ツール」であり、今回は「序章」に過ぎないのだという。分断は、彼の信条である「つながり」とは反対の側にある。逆説的なアプローチなのか、それとも世界の矛盾や不合理に対するメッセージなのだろうか。
ギラギラとした風貌だが、こちらの懐にストレートに飛び込んでくる人なつっこさには、旧知のような親しみも覚えた。私との別れ際、「この先どうなるか自分にも分からない。いつも命がけでやっている」と、その目は語っていた。
ある日、南米の少数民族の言葉と自分の名前である「ワタル」が、「つなげる」という日本語と同義語であることを知って、世界はつながっていると感じたという。それ以来「世界のつながり」は彼の信条となった。日本に戻ってからは、神社仏閣をめぐりながら放浪を続け、精神世界にものめり込んだ。
その後、信州に戻り粘菌の美しさと生態にのめり込んで山に棲んだ。ある日、仲間の壮絶な最期に向き合うこととなったが、その空間は荘厳な美に充たされていたという。このことは、山上の野性にも似た感性を突き動かし、制作に没頭させた。生み出したものは鎮魂と賛美であるが、自分の死も同様に美しくありたいとの願いを込めているかのようだ。
今回、山上はこれまでの表現を大きく変化させるつもりでいる。本人のコメントにあるように「分断」をコンセプトとした劇場をつくるのである。山上は、これについて、作品はあくまで「ツール」であり、今回は「序章」に過ぎないのだという。分断は、彼の信条である「つながり」とは反対の側にある。逆説的なアプローチなのか、それとも世界の矛盾や不合理に対するメッセージなのだろうか。
ギラギラとした風貌だが、こちらの懐にストレートに飛び込んでくる人なつっこさには、旧知のような親しみも覚えた。私との別れ際、「この先どうなるか自分にも分からない。いつも命がけでやっている」と、その目は語っていた。
佐藤 聡史 (東御市企画部文化振興室・丸山晩霞記念館)
Prologue
YAMAKAMI is a unique artist who detests spending life cozily. When he was fifteen years old, he started wondering around the world. After returning to Japan, he lived in the mountains looking for slime molds and bathed himself in the spiritual world as well. He felt a solemn beauty in the heroic death of his friend, which moved him and awoke his wild sensibility motivating him to create masterpieces of art as requiem and homage. His belief has been “to remain connected” ever since he learned that his first name, Wataru, meant “to be connected” in the language of a minority group in South America. But, for this exhibition, he says that he would create a “theater” displaying the concept of “to be divided.” He also says that his work is only a tool for him, and he has just begun its “Prologue.”
Sato, Satoshi (Maruyama Banka Memorial Museum)