DOCUMENT
学芸員テキスト詳細
伊藤 純代に関する学芸員テキスト
日本語テキストで読む
Read in English Text
記憶のなかの恐れと欲求
伊藤は辰野町と塩尻市とに二分される山間の小盆地の生まれ。400年来の古い宿場が歴史を伝えるとともに、標高800mを超える一帯は自然豊かな土地柄だ。子どもの頃、飛び交うトンボを捕まえ、その内側を見たいがためにトンボの殻を剥く行為を繰り返し、遊び場だった森で見た動物の死骸が目に焼き付いたという。生き物の生と死をめぐる関心がその後の制作へと繋がっていく。
伊藤は大学ではデザインから彫刻に転じ、塑造や鋳造に親しむが、やがてぬいぐるみという身近な素材に着目し、その解体が作品形成に至る。ほどなく着せ替え人形に目が向けられ、何十体もの人形のかわいい顔立ちが集まり、一転して見たこともない形相が出現。人形のボディの表面が削られて、発泡断熱材・スタイロフォームで造形した少女像の表面に貼り込まれる。アクリルを混ぜた発泡ウレタンの溶液が衣服に浸み、表面を流れる。遠目にはどこかポップな印象さえあるが、グロテスクな雰囲気が際立つ彫刻作品として強烈な存在感を放つ。
作者の幼少期の体験を内包するこうした作品やインスタレーションは、解体された人形が新たな生として再生するプロセスでもあり、人間の殻の内部と外部、エンドレスな生と死の境界を提示する。没しては昇る太陽や月のアナロジーとして生と死をとらえていた縄文人は、土偶を造形し生への信奉を表現した。
戦後の1960年代から子どもの玩具として登場した日本の着せ替え人形は、少女漫画から抜け出たようなその顔立ちが好まれ、現在まで広く普及している。また、雛人形の「藤娘」や「汐汲み」は、各家庭で理想の女子のステレオタイプとして定着してきた。伊藤の作品は、具象の彫像や塑像などカーヴィングとモデリングで成立してきた近代彫刻の既成概念を脱力させながら、時代が求めた近代女性像の超克まで思い及ぶ。
伊藤は大学ではデザインから彫刻に転じ、塑造や鋳造に親しむが、やがてぬいぐるみという身近な素材に着目し、その解体が作品形成に至る。ほどなく着せ替え人形に目が向けられ、何十体もの人形のかわいい顔立ちが集まり、一転して見たこともない形相が出現。人形のボディの表面が削られて、発泡断熱材・スタイロフォームで造形した少女像の表面に貼り込まれる。アクリルを混ぜた発泡ウレタンの溶液が衣服に浸み、表面を流れる。遠目にはどこかポップな印象さえあるが、グロテスクな雰囲気が際立つ彫刻作品として強烈な存在感を放つ。
作者の幼少期の体験を内包するこうした作品やインスタレーションは、解体された人形が新たな生として再生するプロセスでもあり、人間の殻の内部と外部、エンドレスな生と死の境界を提示する。没しては昇る太陽や月のアナロジーとして生と死をとらえていた縄文人は、土偶を造形し生への信奉を表現した。
戦後の1960年代から子どもの玩具として登場した日本の着せ替え人形は、少女漫画から抜け出たようなその顔立ちが好まれ、現在まで広く普及している。また、雛人形の「藤娘」や「汐汲み」は、各家庭で理想の女子のステレオタイプとして定着してきた。伊藤の作品は、具象の彫像や塑像などカーヴィングとモデリングで成立してきた近代彫刻の既成概念を脱力させながら、時代が求めた近代女性像の超克まで思い及ぶ。
赤羽 義洋 (辰野美術館)
ITO Sumiyo
As a child, ITO repeatedly stripped off the outer shells of dragonflies she caught out of a temptation to view their internal organs. She also witnessed dead animals in the woods, which was her playground. Through such experiences, she developed an interest in life and death, which led her to create art. She created plaster and casted figures at university. Then, before long, she started her work by disassembling stuffed toys. She assembles dozens of cute Japanese Barbie Dolls’ faces into her works and, at times, shaves off the surfaces of dolls’ bodies, then pastes them onto the girls’ figures made of styrofoam.
Occasionally, she allows a colored solution of foam polyurethane to soak into the dresses of the dolls and lets it flow down their surfaces. From a distance, they give a pop-art-like impression. However, the grotesque atmosphere is overwhelming and strong in its existence. Her works and installations, which connote her experiences in childhood, conjure up the existence of the endless circle of life and death.
Occasionally, she allows a colored solution of foam polyurethane to soak into the dresses of the dolls and lets it flow down their surfaces. From a distance, they give a pop-art-like impression. However, the grotesque atmosphere is overwhelming and strong in its existence. Her works and installations, which connote her experiences in childhood, conjure up the existence of the endless circle of life and death.
Akahane, Yoshihiro (Tatsuno Museum of Art)