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末永 恵理に関する学芸員テキスト
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末永恵理 信州でひらいた創作の路
末永恵理はいま、無数の点あるいは粒の集積がキャンバスのあらゆる空間を埋め尽す絵画を制作している。ごく小さな、それでも一つひとつ違う点と周囲の空間との絶妙なまじわりは、ことのほか印象深い。近づいて観るといびつなところを見つけたり、かすれていたり手仕事の痕跡を感じる。次に、少し距離を取って鑑賞してみる。すると印象が変化し濃淡のある豊かな色彩は重層的で、美的世界を創出する。
ある人にはその黄色い粒がミモザの花々に見えてくるし、ある人には風景として、夏の終わりの寂しさやひだまりの優しさをイメージする装置となる。知覚の刺激から想起されるのは、忘れかけていた記憶であったり、明るい未来への予感であったり、キャンバスのなかは小宇宙の様相だ。
末永は東京で生まれ育った。大学時代は自転車で一人旅を好み、東北地方などに旅行に出かけてはデッサンを重ねた。身体を鍛え感性を研ぎ澄まして帰京すると、その経験を創作に昇華させた。器用な性格ではなく、画業には強いこだわりを持っていた。そのせいか東京では画業と生活とのはざまで悩んだこともあったという。
しかし、1999年の夏に八ヶ岳山麓へと移り住んでからは、豊かな自然環境のもと、美術とは無縁の仕事を自分に課し、毎年個展を開催し作品発表すると決め、純粋に描きたいと思うものを追求してきた。
2010年には小海高原美術館でのグループ展でチャコールペンシルだけを使用して描くシリーズを発表した。庭園の敷石のような大胆な網目模様は、木炭の濃淡で徐々に表現していくという。葉や落水などをイメージさせる矩形を逸脱した輪郭は強調され、われわれを異空間へといざなう。
そして2014年に「galaxy」シリーズを発表し、宇宙を思わせる巨大な画面に数多の星をちりばめ、科学的な視点を持つ新たな地平をひらいた。末永はこれからも信州を拠点に創作の路を走り続けるだろう。本展がそのステップとなることを願う。
ある人にはその黄色い粒がミモザの花々に見えてくるし、ある人には風景として、夏の終わりの寂しさやひだまりの優しさをイメージする装置となる。知覚の刺激から想起されるのは、忘れかけていた記憶であったり、明るい未来への予感であったり、キャンバスのなかは小宇宙の様相だ。
末永は東京で生まれ育った。大学時代は自転車で一人旅を好み、東北地方などに旅行に出かけてはデッサンを重ねた。身体を鍛え感性を研ぎ澄まして帰京すると、その経験を創作に昇華させた。器用な性格ではなく、画業には強いこだわりを持っていた。そのせいか東京では画業と生活とのはざまで悩んだこともあったという。
しかし、1999年の夏に八ヶ岳山麓へと移り住んでからは、豊かな自然環境のもと、美術とは無縁の仕事を自分に課し、毎年個展を開催し作品発表すると決め、純粋に描きたいと思うものを追求してきた。
2010年には小海高原美術館でのグループ展でチャコールペンシルだけを使用して描くシリーズを発表した。庭園の敷石のような大胆な網目模様は、木炭の濃淡で徐々に表現していくという。葉や落水などをイメージさせる矩形を逸脱した輪郭は強調され、われわれを異空間へといざなう。
そして2014年に「galaxy」シリーズを発表し、宇宙を思わせる巨大な画面に数多の星をちりばめ、科学的な視点を持つ新たな地平をひらいた。末永はこれからも信州を拠点に創作の路を走り続けるだろう。本展がそのステップとなることを願う。
伊藤 幸穂 (木曽町教育委員会)
A Path for Creating Art Beginning in Shinshu
SUENAGA Eri creates paintings with innumerable dottings which fill her canvas.
When we look closely at her paintings, we see the traces of her brush strokes. While viewing them from a distance, we can see her rich hues, creating light and shade, are multi-layered and beautiful.
SUENAGA was born and raised in Tokyo. While living in Tokyo, she enjoyed bicycle trips on her own to various places, but was troubled with the conflict that existed between her livelihood and pursuing her art. Since moving to the foot of Mt. Yatsugatake in 1999, she has held a solo exhibition annually. In 2014, she sowed a large canvas with numerous stars, conjuring an image of cosmic space, opening a new horizon for her art depicting a kind of scientific viewpoint. SUENAGA keeps forging new paths for creating art, based in Shinshu.
When we look closely at her paintings, we see the traces of her brush strokes. While viewing them from a distance, we can see her rich hues, creating light and shade, are multi-layered and beautiful.
SUENAGA was born and raised in Tokyo. While living in Tokyo, she enjoyed bicycle trips on her own to various places, but was troubled with the conflict that existed between her livelihood and pursuing her art. Since moving to the foot of Mt. Yatsugatake in 1999, she has held a solo exhibition annually. In 2014, she sowed a large canvas with numerous stars, conjuring an image of cosmic space, opening a new horizon for her art depicting a kind of scientific viewpoint. SUENAGA keeps forging new paths for creating art, based in Shinshu.
Ito, Sachiho (Kiso-machi Board of Education)