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山上 晃葉に関する学芸員テキスト
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多様な価値と言いつつ
単一性の心地よさから逃れられない世界に咲く花
美術館で彼女の作品を展示していたとき、しばしば「これは本当に版画ですか?」と問われた。多摩美の版画科に受かったから、というシンプルな理由ではじまった道程。支持体が紙では自由に変形できないことに窮屈さを感じ、まずTシャツに刷ることからはじまり、伸縮性素材との出会いが彼女を自由にした。あの素材の皮膚感覚が、テーマとする「人間の身体、サイクル」ともマッチしたのだろう。
われわれは皮膚に覆われていることによってかろうじてその形態を保っているが、あんな薄くて脆いものとそこに付帯する感覚器官で、物理的な身体にとどまらず自分という存在そのものの境界を分けようとしているのだ。その境界の曖昧さは、危険でもあり心地よくもある。自分にとって正しいことがほかの誰にとっても正しくあるべきだという視界の狭さにもなり、他人の家の玄関先に黙って勝手に野菜を置いていくような田舎で代表的な行動にもなる。こちらの心ひとつでその解釈も変わり、自分自身が変容していく可能性をどこまで残せるか、という勝負どころにもなってくるのだろう。作品のなかで、果たして身体のどの部位なのかも定かでない「蠢く生命体的ななにか」がさまざまに結合しているのを見ると、社会的存在としては不安感を覚え、自然的存在としては安心感を覚えるのかもしれない。目に見えにくく、認識しにくいものを可視化することが美術の役割のひとつだとすれば、彼女の作品は、まことに明快にその期待に応えているといえよう。
作品を制作するうえで「自分の作った型にはまらない・人に見せたときに素通りされるものは作らない」ことを大切にしているという。心を常にフリーにし、自分自身の起こすハプニングも楽しみつつ、嫌味なく戦略的で挑戦的な姿勢を保つ。いよいよ本格的に世界に出たことで、彼女の作品が「さまざまな考え方が、本当の意味で許されるべきものである」ことを示してくれることを、心から期待している。
われわれは皮膚に覆われていることによってかろうじてその形態を保っているが、あんな薄くて脆いものとそこに付帯する感覚器官で、物理的な身体にとどまらず自分という存在そのものの境界を分けようとしているのだ。その境界の曖昧さは、危険でもあり心地よくもある。自分にとって正しいことがほかの誰にとっても正しくあるべきだという視界の狭さにもなり、他人の家の玄関先に黙って勝手に野菜を置いていくような田舎で代表的な行動にもなる。こちらの心ひとつでその解釈も変わり、自分自身が変容していく可能性をどこまで残せるか、という勝負どころにもなってくるのだろう。作品のなかで、果たして身体のどの部位なのかも定かでない「蠢く生命体的ななにか」がさまざまに結合しているのを見ると、社会的存在としては不安感を覚え、自然的存在としては安心感を覚えるのかもしれない。目に見えにくく、認識しにくいものを可視化することが美術の役割のひとつだとすれば、彼女の作品は、まことに明快にその期待に応えているといえよう。
作品を制作するうえで「自分の作った型にはまらない・人に見せたときに素通りされるものは作らない」ことを大切にしているという。心を常にフリーにし、自分自身の起こすハプニングも楽しみつつ、嫌味なく戦略的で挑戦的な姿勢を保つ。いよいよ本格的に世界に出たことで、彼女の作品が「さまざまな考え方が、本当の意味で許されるべきものである」ことを示してくれることを、心から期待している。
工藤 美幸 (佐久市)
A Flower Blooming in the World of Homogeneity, too comfortable for the artist to leave, with all her Assertion on the Importance of Having a Variety of Interpretation
YAMAKAMI Akiha changed the support of her works, from paper to elastic materials, because she felt inconvenienced while trying to change the shapes of her works freely. I think her decision turned out to be beneficial to her, as she was working on the theme, “the human body and its cycle,” because the new materials might suit her cutaneous sensation very well.
When creating her works, she says, she places importance on “not stereotyping herself by her own works,” and “never to allow viewers to simply pass by her works.” I heartily expect the works of YAMAKAMI Akiha, who moved her work base to the U.S., will reflect her comments that “a variety of ways of thinking should be allowed, in their true meaning.”
When creating her works, she says, she places importance on “not stereotyping herself by her own works,” and “never to allow viewers to simply pass by her works.” I heartily expect the works of YAMAKAMI Akiha, who moved her work base to the U.S., will reflect her comments that “a variety of ways of thinking should be allowed, in their true meaning.”
Kudo, Miyuki (Saku City)