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須坂版画美術館に関する学芸員テキスト
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北信学芸員が作家を選んだ理由について
「シンビズム2 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち」展、北信会場では、齋藤春佳(油画、インスタレーション)、高木こずえ(写真)、中村眞美子(版画)、藤野貴則(陶芸)、山上晃葉(ソフト・スカルプチュア、ペインティング)の5名の作家の作品を展示する。
各作家の詳しい解説は、推薦した学芸員の文章を参照してもらうとして、個人的に関心があったのは、なぜその作家を推薦し、どうやって出会ったのかということだった。おそらくこの件については各作家の紹介文では文字数の関係上明かされないことが多いので、できればこの場を借りて紹介できればと考える。
そもそもシンビズムという展覧会は作家だけでなく本来黒子的な存在である学芸員にもスポットをあてた企画であるため、その学芸員がどういう思いでこの展覧会に臨んでいるかを示したいと思うのである。
齋藤春佳を推薦した中野市立博物館の綿貫薫氏は、作家を選んだ理由について次のように語っている。
「長野県出身の作家さんを調べていたときに、齋藤さんの作品写真を目にした。もともと齋藤さんのことは存じ上げていたが、改めてその作品の透明感に惹かれて、表現の幅の広さとこれからさらに伸びていく可能性を感じて選んだ。個性はありつつも固まっていないところ。新しいものを取り入れていく意欲のようなものを感じられるのも魅力だと思っている。年齢的にもシンビズムにぴったりだと感じた」
作家との出会いについては、「大学時代の学芸員実習で一緒だったのがきっかけ。当時から積極的に活動されていて、8人ほどいた実習生のなかでもとくに記憶に残っていた。その後会うことはなかったが、活躍を目にすることがありひそかに応援した。まさか作家と学芸員として再会できるとは思わず、大変うれしく感じているし、もしそういったきっかけがなくても、単純に自分の好みの作風なので目に留まったのではないかと思う」。
高木こずえを推薦した伊藤羊子氏(一般財団法人長野県文化振興事業団)は、選定理由について、「東京を活動拠点としていた2010年「GROUND」「MID」までの作品を第一期とするならば、2011年から長野に戻り「SUZU」「琵琶島」などを制作した第二期、そして1年余りの渡米を経た現在は第三期と捉えることができる。すでに高い評価を受けた作家だが、過去の人にするわけにはいかない。継続して地元での発表の機会を作る必要がある。今回、開催会場となる須坂市は、高木が高校生活を送り、カメラと出会ったゆかりの地である。第一期、第二期の長野の展示に携わった者として、本展は今期の作品を紹介する絶好の機会と考えた」と言い、出会いについては、「2010年2月17日、高木さんの都内同時開催した2つの個展(MID、GROUND)の初日。私は、たまたまほかの出張で上京していたので、両方の展示を開館と同時に拝見した。高木さんは正午に開館したMIDのギャラリーにお見えで、展示室いっぱいに散りばめられた写真を貼り終えた直後だったようで、彼女はスタッフの方と脚立を片付けている最中だった。当時、私は長野県若手芸術家支援事業「next」の準備をしていて、その象徴となるヒトを探していた。next出品の内諾を頂き、展示準備を進めるなかで、木村伊兵衛写真賞受賞が発表され、一躍時の人になっていく状況を図らずも近くで見せていただくことができた。以後、微力ながら『SUZU』の出版のために出版社へお願いに行ったり、寄稿や販促の個展をしたり、地元のパブリックコレクションとなるべく努力をした」。
藤野貴則は須坂版画美術館の梨本有見氏が選んだ。「藤野さんは、昨年まで旧小田切家住宅にて日本工芸会の作家を取り上げる展覧会を企画していたことから、作品と名前は存じ上げていた。ネットや写真で、ペットボトルやネジの作品を制作していることを知り、表現の幅が面白いと思い推薦した」
山上晃葉を選んだ工藤美幸氏は、「昨年まで所属していた佐久市立近代美術館の収蔵作家で、アメリカに本拠地を構えてチャレンジしようとする姿勢に、応援したいと思った。なぜ選んだかは複合的だが、彼女が版画カテゴリにいるというところも、美術が新しい価値観、世界観を提供する、刺激する存在であるという象徴的な要素があると思っていた」。
私はといえば、中村眞美子とは、いつ頃出会ったのか具体的には思い出せないくらい前から作品を目にしていたような気がする。代表作ともいえる冬の草のシリーズは、普段目に留めないような風景を切り取り、静かでありながら強さがある作品だ。着実に丁寧に、そして地道に表現をし続けている作家を、シンビズムを通してより多くの人たちに見ていただきたい、魅力を知っていただきたいと思って推薦した作家である。
理由はさまざまだが、どの作家も学芸員が自信を持って紹介したい作家だ。会場でぜひじっくりとご覧いただけたら幸いである。
各作家の詳しい解説は、推薦した学芸員の文章を参照してもらうとして、個人的に関心があったのは、なぜその作家を推薦し、どうやって出会ったのかということだった。おそらくこの件については各作家の紹介文では文字数の関係上明かされないことが多いので、できればこの場を借りて紹介できればと考える。
そもそもシンビズムという展覧会は作家だけでなく本来黒子的な存在である学芸員にもスポットをあてた企画であるため、その学芸員がどういう思いでこの展覧会に臨んでいるかを示したいと思うのである。
齋藤春佳を推薦した中野市立博物館の綿貫薫氏は、作家を選んだ理由について次のように語っている。
「長野県出身の作家さんを調べていたときに、齋藤さんの作品写真を目にした。もともと齋藤さんのことは存じ上げていたが、改めてその作品の透明感に惹かれて、表現の幅の広さとこれからさらに伸びていく可能性を感じて選んだ。個性はありつつも固まっていないところ。新しいものを取り入れていく意欲のようなものを感じられるのも魅力だと思っている。年齢的にもシンビズムにぴったりだと感じた」
作家との出会いについては、「大学時代の学芸員実習で一緒だったのがきっかけ。当時から積極的に活動されていて、8人ほどいた実習生のなかでもとくに記憶に残っていた。その後会うことはなかったが、活躍を目にすることがありひそかに応援した。まさか作家と学芸員として再会できるとは思わず、大変うれしく感じているし、もしそういったきっかけがなくても、単純に自分の好みの作風なので目に留まったのではないかと思う」。
高木こずえを推薦した伊藤羊子氏(一般財団法人長野県文化振興事業団)は、選定理由について、「東京を活動拠点としていた2010年「GROUND」「MID」までの作品を第一期とするならば、2011年から長野に戻り「SUZU」「琵琶島」などを制作した第二期、そして1年余りの渡米を経た現在は第三期と捉えることができる。すでに高い評価を受けた作家だが、過去の人にするわけにはいかない。継続して地元での発表の機会を作る必要がある。今回、開催会場となる須坂市は、高木が高校生活を送り、カメラと出会ったゆかりの地である。第一期、第二期の長野の展示に携わった者として、本展は今期の作品を紹介する絶好の機会と考えた」と言い、出会いについては、「2010年2月17日、高木さんの都内同時開催した2つの個展(MID、GROUND)の初日。私は、たまたまほかの出張で上京していたので、両方の展示を開館と同時に拝見した。高木さんは正午に開館したMIDのギャラリーにお見えで、展示室いっぱいに散りばめられた写真を貼り終えた直後だったようで、彼女はスタッフの方と脚立を片付けている最中だった。当時、私は長野県若手芸術家支援事業「next」の準備をしていて、その象徴となるヒトを探していた。next出品の内諾を頂き、展示準備を進めるなかで、木村伊兵衛写真賞受賞が発表され、一躍時の人になっていく状況を図らずも近くで見せていただくことができた。以後、微力ながら『SUZU』の出版のために出版社へお願いに行ったり、寄稿や販促の個展をしたり、地元のパブリックコレクションとなるべく努力をした」。
藤野貴則は須坂版画美術館の梨本有見氏が選んだ。「藤野さんは、昨年まで旧小田切家住宅にて日本工芸会の作家を取り上げる展覧会を企画していたことから、作品と名前は存じ上げていた。ネットや写真で、ペットボトルやネジの作品を制作していることを知り、表現の幅が面白いと思い推薦した」
山上晃葉を選んだ工藤美幸氏は、「昨年まで所属していた佐久市立近代美術館の収蔵作家で、アメリカに本拠地を構えてチャレンジしようとする姿勢に、応援したいと思った。なぜ選んだかは複合的だが、彼女が版画カテゴリにいるというところも、美術が新しい価値観、世界観を提供する、刺激する存在であるという象徴的な要素があると思っていた」。
私はといえば、中村眞美子とは、いつ頃出会ったのか具体的には思い出せないくらい前から作品を目にしていたような気がする。代表作ともいえる冬の草のシリーズは、普段目に留めないような風景を切り取り、静かでありながら強さがある作品だ。着実に丁寧に、そして地道に表現をし続けている作家を、シンビズムを通してより多くの人たちに見ていただきたい、魅力を知っていただきたいと思って推薦した作家である。
理由はさまざまだが、どの作家も学芸員が自信を持って紹介したい作家だ。会場でぜひじっくりとご覧いただけたら幸いである。
宮下 真美 (おぶせミュージアム・中島千波館)
Summary of the Works of the Artists in the Northern Shinshu Region− The Reasons Why the Curators Chose Each Artist −
Below we first list the names of the artists, followed by the names of the recommenders between parentheses, then their reasons for recommendation and feelings about this exhibition.
SAITO Haruka (Watanuki, Kaoru)
I was attracted to the transparency of her works and felt the potentiality of growth in view of the breadth of her expression. I also felt her experimental spirit and thought her to be a suitable artist for the exhibit, judging from her age as well.
TAKAGI Cozue (Ito, Yoko)
Her works could be classified into 3 periods: The 1st period may be summed up by the works “GROUND” and “MID.” The 2nd period seems to be represented by the works “SUZU” and “Biwajima.” The 3rd period includes her works now on display since moving to the USA. This exhibition must be a golden opportunity to introduce works of her 3rd period.
FUJINO Takanori (Nashimoto, Yuumi)
While organizing the exhibition of the artists belonging to the Japan Kogei Association, I became interested in the breadth of his expression in his works created with PET bottles and screws, so I decided to recommend him.
YAMAKAMI Akiha (Kudo, Miyuki)
I would like to encourage and support this artist, who challenges herself by working in the USA. The fact that her works belong to the category of prints symbolizes that art is a stimulating existence which presents a new value of sense and view of the world.
NAKAMURA Mamiko (Miyashita, Mami)
I would like to introduce the artist, NAKAMURA Mamiko, who continues to express her works step by step with exactitude and carefulness, to expose more people to the attractiveness of her works through this exhibition.
SAITO Haruka (Watanuki, Kaoru)
I was attracted to the transparency of her works and felt the potentiality of growth in view of the breadth of her expression. I also felt her experimental spirit and thought her to be a suitable artist for the exhibit, judging from her age as well.
TAKAGI Cozue (Ito, Yoko)
Her works could be classified into 3 periods: The 1st period may be summed up by the works “GROUND” and “MID.” The 2nd period seems to be represented by the works “SUZU” and “Biwajima.” The 3rd period includes her works now on display since moving to the USA. This exhibition must be a golden opportunity to introduce works of her 3rd period.
FUJINO Takanori (Nashimoto, Yuumi)
While organizing the exhibition of the artists belonging to the Japan Kogei Association, I became interested in the breadth of his expression in his works created with PET bottles and screws, so I decided to recommend him.
YAMAKAMI Akiha (Kudo, Miyuki)
I would like to encourage and support this artist, who challenges herself by working in the USA. The fact that her works belong to the category of prints symbolizes that art is a stimulating existence which presents a new value of sense and view of the world.
NAKAMURA Mamiko (Miyashita, Mami)
I would like to introduce the artist, NAKAMURA Mamiko, who continues to express her works step by step with exactitude and carefulness, to expose more people to the attractiveness of her works through this exhibition.
Miyashita, Mami (THE OBUSE MUSEUM, The Nakajima Chinami Gallery)