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上田 謙二に関する学芸員テキスト
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パンドラの箱
上田謙二の作品に初めて出会ったのは、碓井峠の旧道近くの小さなギャラリーだった。6年ほど前だっただろうか? 当時、脱サラしたばかりの貧乏コレクターであった私は、入口にほど近い壁にかけられた≪RUNNING ON EMPTY≫という作品を衝動的に入手した。何億年もの地層から発見された鉱物のように美しい塊だった。以後、彼の作品を蒐集するきっかけとなる。連作「Message in bottles」シリーズ、「Book」シリーズは名も知れぬ草花や風景、言葉を活字にし、ボトルや本を型取った厚い樹脂で閉じ込めている。その質感は砂糖菓子の風合いでもあり、鋭利で冷ややかな氷のようでもある。2006年、信州軽井沢町に移住。子どもの頃は感じていたのに忘れてしまっていたこと、山や川に入って感じた草や木、土、花の香などの自然の匂いに感動しながら土地に根付いた日々を送っている。五感を通して楽しめる作品からは軽井沢の湿気、草や土などのしっとりとした感触があふれてくる。
少年時代に母親の実家である長崎県佐世保に転校する。その後、定時制高校に進学、歯科技工士のアルバイトをしながら卒業。そのときの経験から樹脂を流し込む現在の技法につながっているらしい。以後、学資を稼ぐため千葉県のドラム缶工場に就職。
晴れて働きながら通える文化学院夜間美術科に入学し、芸術・文学・哲学のほか多くを学ぶ。そして、大きく影響しているものは音楽である。かつて住んでいた佐世保という土地柄から洋楽を楽しむ機会が十分にあり、ロックミュージックに強く惹かれていく。平和に対するメッセージを織り込んだタイトルが多いのも、その影響であろう。
日常のなかで心を動かされたことを作品に落としていくと、社会や世情に対してメッセージ性が強いものになるそうだ。
「作品は僕の日記のようなもの」と話す上田にとっての表現とは、開かれてしまった「パンドラの箱」の奥底にある「希望」を閉じ込める行為なのかもしれない。
少年時代に母親の実家である長崎県佐世保に転校する。その後、定時制高校に進学、歯科技工士のアルバイトをしながら卒業。そのときの経験から樹脂を流し込む現在の技法につながっているらしい。以後、学資を稼ぐため千葉県のドラム缶工場に就職。
晴れて働きながら通える文化学院夜間美術科に入学し、芸術・文学・哲学のほか多くを学ぶ。そして、大きく影響しているものは音楽である。かつて住んでいた佐世保という土地柄から洋楽を楽しむ機会が十分にあり、ロックミュージックに強く惹かれていく。平和に対するメッセージを織り込んだタイトルが多いのも、その影響であろう。
日常のなかで心を動かされたことを作品に落としていくと、社会や世情に対してメッセージ性が強いものになるそうだ。
「作品は僕の日記のようなもの」と話す上田にとっての表現とは、開かれてしまった「パンドラの箱」の奥底にある「希望」を閉じ込める行為なのかもしれない。
加藤 泰子 (心の花美術館 in 上田)
Pandora’s Box
UEDA Kenji moved to Karuizawa-machi, Shinshu, in 2006. He spends his days rooting himself in the land of Shinshu, being moved by the redolences of “nature,” such as the trees, soil, flowers and so on, which he senses among the mountains and rivers. Though he experienced the same feelings in his childhood, he forgot them long ago. The artist, who is fond of the nature found in Karuizawa and rock music, presents his messages for peace in collages consisting of some “nameless” plants together with his brief comments, all covered with thick resin. For the artist, who says, “my art is a kind of diary,” his creations might be equivalent to acts of shutting out the “hope” left at the bottom of “Pandora’s box,” now opened.
Kato, Yasuko (Art Collection Museum in UEDA)