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西澤 千晴に関する学芸員テキスト
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俯瞰の視点で見つめる
現代社会のリアル
スーツ姿のサラリーマンたち、並び建つ住宅団地、ささやかな幸せ、ラッシュアワー。西澤千晴の作品には大都市に生活する無数の人々の姿が描き出されている。その群像はひたすら淡々と描かれているがゆえ、そこに潜む寓意を読み解きたいと思わせる。読み解こうとする目は、細部まで丹念に描き込まれた人物たちの繰り広げる「ものがたり」に行き着く。ひとつの情景を読み取り、次に移ってゆく。まるで絵巻物のようである。
作家は大学時代に版画を学び、抽象表現に重点を置いていた。その後、アクリルで人物を描くようになるが、版画の単色の刷り重ねイメージは、作家の感性と共鳴するものとなり、アクリル画になった現在もその影響を残している。鮮やかに描き分けるのはそのためである。いずれの作品も離れた位置から似たような服装や見た目の人物がさまざまなドラマを繰り広げる。作家自身も現実社会のなかではその真っただ中にいるはずなのであるが、「なるべく客観的に俯瞰したいと思って」この構図を選んでいる。表情や空間の無機質な装いはこの客観性とも無関係ではない。それが人物たちの直面する人生の場面を鮮明にあぶり出す。
主題となるのはサラリーマン、家族、子ども、社会の世相などさまざまだ。夢のありそうなネーミングの作品でも画面をつぶさに見ると、実はそんな理想的現実ばかりではないことがわかる。どうしようもない喜怒哀楽や群衆のモザイクのなかで生きていかざるを得ないわれわれなのだと悟らされる。作家が描く「おじさん」たちの姿はその象徴だ。誰かの幸福は誰かの犠牲のうえに成り立っている。都会ではそれが露骨に見えてしまう。しかし、こんな世の中であっても私たちは生きていくのである。缶コーヒーのCMよろしく「このろくでもない、すばらしき世界」を生きていくのだ。宿命を笑い飛ばし、「それでも生きていくしかないわな!」と思えるのは、この作家の描く現代社会のリアルに泣き笑いの共感ができるからだ。
作家は大学時代に版画を学び、抽象表現に重点を置いていた。その後、アクリルで人物を描くようになるが、版画の単色の刷り重ねイメージは、作家の感性と共鳴するものとなり、アクリル画になった現在もその影響を残している。鮮やかに描き分けるのはそのためである。いずれの作品も離れた位置から似たような服装や見た目の人物がさまざまなドラマを繰り広げる。作家自身も現実社会のなかではその真っただ中にいるはずなのであるが、「なるべく客観的に俯瞰したいと思って」この構図を選んでいる。表情や空間の無機質な装いはこの客観性とも無関係ではない。それが人物たちの直面する人生の場面を鮮明にあぶり出す。
主題となるのはサラリーマン、家族、子ども、社会の世相などさまざまだ。夢のありそうなネーミングの作品でも画面をつぶさに見ると、実はそんな理想的現実ばかりではないことがわかる。どうしようもない喜怒哀楽や群衆のモザイクのなかで生きていかざるを得ないわれわれなのだと悟らされる。作家が描く「おじさん」たちの姿はその象徴だ。誰かの幸福は誰かの犠牲のうえに成り立っている。都会ではそれが露骨に見えてしまう。しかし、こんな世の中であっても私たちは生きていくのである。缶コーヒーのCMよろしく「このろくでもない、すばらしき世界」を生きていくのだ。宿命を笑い飛ばし、「それでも生きていくしかないわな!」と思えるのは、この作家の描く現代社会のリアルに泣き笑いの共感ができるからだ。
小笠原 正 (上田市立美術館)
The Reality of Modern Society Seen from a Bird’s Eye Point of View
NISHIZAWA Chiharu depicts the lives of numerous people who live in the megalopolis of Japan in the 21st Century. There are various kind of models in his art, which include salaried workers, their families, children, and the aspects of society itself. Even though the artist himself is standing in the very heart of his theme, he prefers to work objectively from a lofty, distant angle when he renders his works.
There are countless people packed in this megalopolis. They spend their daily lives indifferently, fraught with the chaos of their dreams and hopes and reality, seemingly unaware of its contradictions. Nishizawa is a unique and rare artist who expresses calmly, but vividly, the joy, sorrow and fate that subsist in current Japanese society.
There are countless people packed in this megalopolis. They spend their daily lives indifferently, fraught with the chaos of their dreams and hopes and reality, seemingly unaware of its contradictions. Nishizawa is a unique and rare artist who expresses calmly, but vividly, the joy, sorrow and fate that subsist in current Japanese society.
Ogasawara, Tadashi (Ueda City Museum of Art)