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橋口 優に関する学芸員テキスト
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人と山 −つながりの場としての絵画−
画家・橋口優は、八ヶ岳の麓である茅野市に生まれ、諏訪市で育った。彼女が通った小学校は山に面しており、山は遊び場であった。大学進学のため長野県を離れ、10年間東京で過ごしたが、近年故郷に戻り、この地で制作をおこなっている。
橋口は油彩画をおもに描いているが、その代表的シリーズは、小学校を主題である。体育館での全校集会、教室の風景、出し物の練習をする子どもたちの姿。小さな体の子どもたちは均質に描かれ、それぞれのアイデンティティが感じられないが、だからこそ、観る者はそのなかのひとりに自分を投影させて、子ども時代の記憶や感情をそこに見たりする。記憶のなかで繰り広げられる、静かな物語である。
一方で、最近作は山が主題である。記憶に重点が置かれる「学校」シリーズに対し、「山」シリーズは橋口の現在が反映され、動的な作品が多くなっている。橋口は、登山関連用品店で働きながら、自ら山に足を運び、制作に取り組む。描く対象は、山そのものというより、「山とそこに集うものたち」といった方が良さそうである。色とりどりの小鳥たちや、登山やカヌー、パラグライダーなどで楽しむ人びと。山で健やかに、のびのびと過ごす人と、橋口自身が得た自然の気配が表されている。
橋口は、「山」シリーズはより鑑賞者を意識して描くという。作品を、単に美しい山の風景画としてではなく、山を愛する人びととの共感の場として表すことを試みているのである。また、雑誌の挿絵や登山道具につけるフェルト作品を手がけることで、油彩画だけでは達し得ない人とのつながりを得ようとしている。
近代以前の西洋において、崇高の対象とされたアルプスの名峰は、アルプス鉄道の開通により人びとと身近な存在となり、次第に絵画の主題に加わったという。橋口も、山と身近にいるからこそ、山という主題に取り組むことが可能なのであり、熱心なのだろう。「山」シリーズは、彼女が体験し、そこで得た山の「あれこれ」がつまっている。ぜひ画面を前にして、山の「あれこれ」を体験したいと思う。
橋口は油彩画をおもに描いているが、その代表的シリーズは、小学校を主題である。体育館での全校集会、教室の風景、出し物の練習をする子どもたちの姿。小さな体の子どもたちは均質に描かれ、それぞれのアイデンティティが感じられないが、だからこそ、観る者はそのなかのひとりに自分を投影させて、子ども時代の記憶や感情をそこに見たりする。記憶のなかで繰り広げられる、静かな物語である。
一方で、最近作は山が主題である。記憶に重点が置かれる「学校」シリーズに対し、「山」シリーズは橋口の現在が反映され、動的な作品が多くなっている。橋口は、登山関連用品店で働きながら、自ら山に足を運び、制作に取り組む。描く対象は、山そのものというより、「山とそこに集うものたち」といった方が良さそうである。色とりどりの小鳥たちや、登山やカヌー、パラグライダーなどで楽しむ人びと。山で健やかに、のびのびと過ごす人と、橋口自身が得た自然の気配が表されている。
橋口は、「山」シリーズはより鑑賞者を意識して描くという。作品を、単に美しい山の風景画としてではなく、山を愛する人びととの共感の場として表すことを試みているのである。また、雑誌の挿絵や登山道具につけるフェルト作品を手がけることで、油彩画だけでは達し得ない人とのつながりを得ようとしている。
近代以前の西洋において、崇高の対象とされたアルプスの名峰は、アルプス鉄道の開通により人びとと身近な存在となり、次第に絵画の主題に加わったという。橋口も、山と身近にいるからこそ、山という主題に取り組むことが可能なのであり、熱心なのだろう。「山」シリーズは、彼女が体験し、そこで得た山の「あれこれ」がつまっている。ぜひ画面を前にして、山の「あれこれ」を体験したいと思う。
People and the Mountains
– Painting as a Place for Forming Relationships
The painter, HASHIGUCHI Yuu, deals with elementary schools in her “School Series,” which represents the majority of her works. However, in her recent works, she deals with mountains as her main theme. Her “Mountain Series” reflects her current life, and a growing number of her works tend to convey dynamism.
HASHIGUCHI, while working at a mountaineering store, takes herself to the mountains and creates her works. The objects in her paintings are “the mountains and people who gather there,” rather than the mountains themselves, and she depicts in her paintings not only the people spending their time healthily and relaxed in the mountains, but also the atmosphere in the variety of nature which she senses in the mountains. HASHIGUCHI says she is more conscious of her viewers when she creates pieces in her “Mountain Series.” She is trying to represent mountains in her works as places where those who love mountains as she does share the same feelings instead of representing mountains alone as beautiful scenery.
The painter, HASHIGUCHI Yuu, deals with elementary schools in her “School Series,” which represents the majority of her works. However, in her recent works, she deals with mountains as her main theme. Her “Mountain Series” reflects her current life, and a growing number of her works tend to convey dynamism.
HASHIGUCHI, while working at a mountaineering store, takes herself to the mountains and creates her works. The objects in her paintings are “the mountains and people who gather there,” rather than the mountains themselves, and she depicts in her paintings not only the people spending their time healthily and relaxed in the mountains, but also the atmosphere in the variety of nature which she senses in the mountains. HASHIGUCHI says she is more conscious of her viewers when she creates pieces in her “Mountain Series.” She is trying to represent mountains in her works as places where those who love mountains as she does share the same feelings instead of representing mountains alone as beautiful scenery.