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橋本 遥に関する学芸員テキスト
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漆の伝道師
薄濃という言葉を知る人がどれほどいるだろうか。戦国の世に滅ぼされた浅井長政らは織田信長により薄濃にされたという。これは頭骨に漆を塗り金箔を施して飾ったもので、現代に生きる私たちにすれば、残酷極まる行為に信長のイメージを重ね、その暴虐ぶりに戦慄を感じずにはいられない。しかし、これは死者への最上級の敬意を表す行為であったようだ。信長は攻略に苦しんだ敵将を讃え、その鎮魂のために薄濃をしたようだ。
橋本遥の作る薄濃はもちろん人間の頭骨ではない。成形した髑髏を原型に、石膏で型を取り、漆を塗り重ねていく脱乾漆の技法によるものだ。厚さは3mmほどで手に取ると非常に軽い。堅さと軽さを併せ持つ乾漆造型は、工芸分野にとどまらぬ、ほかの手段による造型とも異なる可能性を秘めている。
橋本は猟奇的で血みどろな表現は苦手という。その一方で、人体の形状に惹かれるそうだ。作品は頭骨の模型を参考に原型を作るため、できあがった表情はどこかユーモラスだ。後頭部に目を移すと、そこには伏彩色を施した螺鈿の技法で花が描かれている。この花も制作をした季節の花というので、それほど思い入れはないらしい。鮮やかな花々に目を奪われるが、その周りには金色の蒔絵で描かれた雲状の模様がある。一見、伝統的な蒔絵の模様を思わせるが、そこには本来は頭のなかにあるべき脳ミソが描かれている。さらに、その周りには金色の蛆のようなものが…。
古今の美術のようにこの作品に死を思うのは考えすぎのようだ。橋本の狙いは漆の技巧をどう見せるかにある。橋本は漆の魅力を多くの人に伝えることに使命を燃やしている。現在の橋本は東京藝術大学美術学部(取手校)で非常勤講師を務める一方で、1カ月に10日ほど木曽平沢の工房に滞在し、松本・塩尻・安曇野で漆芸教室を主宰している。漆のクラフト作品を制作しながら、素知らぬ顔で薄濃の技巧にのめり込む橋本が生み出す新たな表現の行方を注視したい。
橋本遥の作る薄濃はもちろん人間の頭骨ではない。成形した髑髏を原型に、石膏で型を取り、漆を塗り重ねていく脱乾漆の技法によるものだ。厚さは3mmほどで手に取ると非常に軽い。堅さと軽さを併せ持つ乾漆造型は、工芸分野にとどまらぬ、ほかの手段による造型とも異なる可能性を秘めている。
橋本は猟奇的で血みどろな表現は苦手という。その一方で、人体の形状に惹かれるそうだ。作品は頭骨の模型を参考に原型を作るため、できあがった表情はどこかユーモラスだ。後頭部に目を移すと、そこには伏彩色を施した螺鈿の技法で花が描かれている。この花も制作をした季節の花というので、それほど思い入れはないらしい。鮮やかな花々に目を奪われるが、その周りには金色の蒔絵で描かれた雲状の模様がある。一見、伝統的な蒔絵の模様を思わせるが、そこには本来は頭のなかにあるべき脳ミソが描かれている。さらに、その周りには金色の蛆のようなものが…。
古今の美術のようにこの作品に死を思うのは考えすぎのようだ。橋本の狙いは漆の技巧をどう見せるかにある。橋本は漆の魅力を多くの人に伝えることに使命を燃やしている。現在の橋本は東京藝術大学美術学部(取手校)で非常勤講師を務める一方で、1カ月に10日ほど木曽平沢の工房に滞在し、松本・塩尻・安曇野で漆芸教室を主宰している。漆のクラフト作品を制作しながら、素知らぬ顔で薄濃の技巧にのめり込む橋本が生み出す新たな表現の行方を注視したい。
三澤 新弥 (安曇野市教育委員会)
A Missionary of Urushi (Japanese Lacquar)
There are episodes of conquered warlords whose skulls were covered with lacquer and painted with gold after being beheaded. This process is known as “hakudami” and, once completed, their crania were put on display. In the modern world, this may sound extremely crude. However, this was thought to be the way to pay the utmost respect for the dead. The “hakudami” created by HASHIMOTO Haruka is, of course, not made of real human skulls. He uses plaster heads produced from shaped casts. The plaster skulls are lacquered in layers. This method is called “hollow dry lacquering.” HASHIMOTO’s aim is to show the possibilities of the lacquer technique. It looks as though HASHIMOTO is creating just lacquer crafts on one hand but, on the other hand, he truly becomes deeply involved with “hakudami” with an innocent look on his face! I would like to keep my eye on what HASHIMOTO continues to create with his dry lacquer technique.
Misawa, Shinya (Azumino-shi Board of Education)