認知の境界に対する試みー前沢知子の「作品」
MAEZAWA Tomoko
絵画、写真、インスタレーション、WS
前沢 知子
MAEZAWA Tomoko
絵画、写真、インスタレーション、WS
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「場をつくる/場をかえる」を考える。
諏訪湖の花火を初めてみた時、音の響きに驚いたのを覚えています。音は太鼓のように湖面に反射し天に昇る。私が育った飯田では、花火の音は天竜川の渓谷に沿って横に走る。「飯田」の音に、私はそれまで気付かなかったのです。
土地のディテールは、五感を通して無意識に入り込み、知らないうちに人は価値観や規範意識を形成しているのでしょうか。
諏訪湖の太鼓のように空いた空間は、冬は姿を変え、対岸にある2つの諏訪大社を結ぶという御神渡りが現れる。モノが消・現し、場が創出・交換されることで、人の意識と無意識も交差しているようです。
「イメージ」とは、意識と無意識が交差する「鏡」。そこには、価値観や社会規範からなる「像」が映し出されていると、私は考えています。作品では、このような「イメージ」を、ワークショップ参加者や鑑賞者との交換を通して、新たな「イメージ」として映し出しました。
諏訪湖の花火を初めてみた時、音の響きに驚いたのを覚えています。音は太鼓のように湖面に反射し天に昇る。私が育った飯田では、花火の音は天竜川の渓谷に沿って横に走る。「飯田」の音に、私はそれまで気付かなかったのです。
土地のディテールは、五感を通して無意識に入り込み、知らないうちに人は価値観や規範意識を形成しているのでしょうか。
諏訪湖の太鼓のように空いた空間は、冬は姿を変え、対岸にある2つの諏訪大社を結ぶという御神渡りが現れる。モノが消・現し、場が創出・交換されることで、人の意識と無意識も交差しているようです。
「イメージ」とは、意識と無意識が交差する「鏡」。そこには、価値観や社会規範からなる「像」が映し出されていると、私は考えています。作品では、このような「イメージ」を、ワークショップ参加者や鑑賞者との交換を通して、新たな「イメージ」として映し出しました。
Making sites / Changing sites
When I saw the fireworks at Suwa Lake for the first time, I remember being surprised by the sounds. The sounds reverberated with the surface of the lake, like those of drums, then soared into the sky. In Iida-shi, where I grew up, sound travels sideways along the valleys surrounding the Tenryu River. Until then, I have never taken particular notice of the sounds of fireworks in my hometown of Iida.
I think details of a land enter one’s mind through our five senses and create values and norms without our realization.
The Suwa Lake appears differently in winter, on the bare iced surface reminiscent of that of a drum, there occurs a phenomenon of ice ridge formation called “Omiwatari,” connecting two Suwa-taisha Shrines located on the opposite sides of the lake. When things appear and disappear, and places are newly created or transformed, one’s consciousness and unconsciousness seem to intersect as well.
I think an “image” is a kind of “mirror” where one’s consciousness and unconsciousness intersect, reflecting a “representation” consisting of one’s sense of value and social norm. In my works, I transform “images,” through exchanges with workshop participants and viewers, and then present a new “image.”
When I saw the fireworks at Suwa Lake for the first time, I remember being surprised by the sounds. The sounds reverberated with the surface of the lake, like those of drums, then soared into the sky. In Iida-shi, where I grew up, sound travels sideways along the valleys surrounding the Tenryu River. Until then, I have never taken particular notice of the sounds of fireworks in my hometown of Iida.
I think details of a land enter one’s mind through our five senses and create values and norms without our realization.
The Suwa Lake appears differently in winter, on the bare iced surface reminiscent of that of a drum, there occurs a phenomenon of ice ridge formation called “Omiwatari,” connecting two Suwa-taisha Shrines located on the opposite sides of the lake. When things appear and disappear, and places are newly created or transformed, one’s consciousness and unconsciousness seem to intersect as well.
I think an “image” is a kind of “mirror” where one’s consciousness and unconsciousness intersect, reflecting a “representation” consisting of one’s sense of value and social norm. In my works, I transform “images,” through exchanges with workshop participants and viewers, and then present a new “image.”
主な経歴
Career
- 1972
- 長野県飯田市生まれ
- 1997
- 東京造形大学造形学部美術学科I類絵画専攻卒業
- 2009−2013
- 東京造形大学非常勤講師
- 2013−
- 「Tomoko Maezawa Studio」設立
- 2018
- 横浜国立大学大学院修士課程修了
- 2018−
- 東京学芸大学大学院博士課程入学
- 収蔵
- ダイムラー・クライスラー・日本ホールディング株式会社、和歌山県立近代美術館、ドイツ銀行など
主な受賞歴
Award
- 2000
- ダイムラー・クライスラー・グループ「アート・スコープ2000」グランプリ受賞
主な作品発表歴
Release
- 1999
- 滞在制作+展示「九九装置芸術展」(九九峰國家藝術村/台湾)
- 2000
- 「空間体験」(国立国際美術館/大阪府)、滞在制作+個展「ガスコーニュ・ジャパニーズ・アート・スカラーシップ」(モンフランカン/フランス)、個展「ダイムラー・クライスラー・グループ アート・スコープ2000」(スパイラルガーデン/東京都)
- 2001
- WS+展示「クリテリウム」(水戸芸術館現代美術センター/茨城県)、個展「公開制作」「レクチャー」(府中市美術館/東京都)、展示「現代写真の動向2001」(川崎市市民ミュージアム/神奈川県)
- 2003
- 「ガール!ガール!ガール!」(東京オペラシティアートギャラリー/東京都)
- 2007
- WS+展示「からだをいっぱいつかってお絵かきしよう!」(飯田市美術博物館/飯田市)
- 2012
- 「第4回恵比寿映像祭」(東京都写真美術館/東京都)、WS+展示「ここも そこも どこかのここで」(松本市美術館、信州大学/松本市)、「VOCA展2012」(上野の森美術館/東京都)
- 2014
- WS+個展「前沢知子展—私と(私)がつながっていく」(駒ヶ根高原美術館/駒ケ根市)
- 2015
- WS「ABCアートブック」(川崎市市民ミュージアム、川崎市立麻生中学校/神奈川県)、「宇宙をみる眼」(山ノ内町立志賀高原ロマン美術館/山ノ内町)
- 2018
- WS+個展「組替え絵画」(伊勢半本店 紅ミュージアム/東京都)、WS+個展「組替え絵画」(埼玉県立近代美術館/埼玉県)
情報
Information
News 2020/03/09 (月) 更新
[南信会場] 作品リストを公開しました
Report 2020/01/26 (日) 更新
[南信会場] [1/26] 連続トークセッション 第2回「地域と美術館のつながり-今とこれから」
Report 2020/01/26 (日) 更新
[南信会場] [1/26] 作家によるギャラリートーク
Event 2020/01/26 (日)
終了しました作家によるギャラリートーク
11:00〜
茅野市美術館
Report 2020/01/19 (日) 更新
[南信会場] [1/19] 作家、学芸員によるギャラリートーク
Event 2020/01/19 (日)
終了しました作家、学芸員によるギャラリートーク
13:30~
茅野市美術館
Report 2019/11/29 (金) 更新
[南信会場] [11/29] 前沢知子による色彩ワークショップ
Report 2019/11/20 (水) 更新
前沢知子による色彩ワークショップ
News 2019/09/20 (金) 更新
[南信会場] 茅野市美術館と出展作家情報を更新しました。
認知の境界に対する試みー前沢知子の「作品」
学芸員の解説
「作品」とはなんなのだろう。作者自身が手を動かし表現活動として物質的な作品を作りあげるだけではなく、マルセル・デュシャンが、男性便器を≪泉≫と題して発表して以降、廃物芸術といわれるジャンク・アートや、アイデアやコンセプトを作品の中心的構成要素とするコンセプチュアル・アート、ある状況や出来事を生み出す過程に人びとが参与する「関係性の芸術」ともいわれるリレーショナル・アートなど、さまざまな「作品」が生まれている。
前沢知子の作品は、ワークショップ参加者の行為が軸となって制作される。室内に敷き詰められた布のうえで、全身を使って絵具と戯れる。布には参加者の足跡が付き、手形が付き、色は混ざり合いそのにじみから新たな色が生まれる。ワークショップ参加者の行為の痕跡が布上には無数にあふれている。ときには前沢自身の痕跡も残し、美しく色づいた画面となる。ワークショップ参加者の行為も、ただ自由にさせるのではなく、使用する色やその色を使用させるタイミング、道具、果ては絵具の溶き具合…そういったワークショップを取り巻くさまざまな要素を前沢が細やかにコントロールしながら巨大な絵画を描くように進めていく。画面がひとつの一体感を持っているのは、前沢が参加者、そしてその後作品となるワークショップの成果物に丁寧に寄り添い、進めているからである。参加者は、そんなことには気付かないまま、全身を使って絵具と戯れる体験を堪能し、その痕跡を布のうえに残していく。
そうしてできあがった痕跡の集合は、この段階ではただの「ワークショップの成果物」であり、ワークショップには不特定多数が参加するため、「作者」は意味を持たないともいえる。それが、前沢によって「何か」を拾いあげるようにトリミングされ、もしくはさらに大きな布や別の矩形になるように縫い合わされ、または額装や軸装、カーテンなど別の形式が持ち込まれ、展示されることによって、ひとつの「作品」となる。展示されたそれを「前沢知子の作品」として鑑賞することで、鑑賞者の視点・思考は変化し、新たな意味が生成され価値観は変化する。
今展では、さらにその作品のなかに入って鑑賞することができる。なかに入ればそこにはその土地を連想させる隠喩的なモノが、たとえば吊るし雛のように設置されており、その土地と美術館とをつなぐ新たな「場」が生まれている。その土地に育まれたワークショップ参加者によって作られた成果物が、前沢の手により今度はその土地の風土に満ちた場そのものを作り出す。そんな空間を体験した鑑賞者は、意識的・無意識的に抱えている土着の文化に気付き、それが新たな視点でその土地をみつめ直すきっかけとなるのかもしれない。
学生の頃、前沢は大学構内にある木の枝と枝の間に糸を詰める行為に没頭したという。美しく仕上げようというわけではなく、ただその枝と枝の「間」を視覚化していくように糸を詰める。そうすることによって、それまで気付かなかった枝と枝の「間」が顕在化する。空間に少し手を加えるだけで、まったくちがうものにみえてくる。卒業後すぐに行われた初個展では、画廊内の壁の隙間や、釘の穴に糸を詰めた作品を発表。前沢の行為によって隙間は顕在化し、その空間は、見慣れたものとはちがう新鮮なものとして鑑賞者の目に映り、意識の変化をもたらす。
ワークショップ参加者の行為が軸となって制作される近作も同様で、ただのワークショップの成果物だったものが、前沢が手を加えることによって意味を持ち、それをみる者の意識は変化する。作品について、「人びとがあらゆる事象を認知する段階で、意識が切りかわる瞬間である認知の境界に対する試み」と前沢自身が語るように、前沢の作品を通して私たちは無意識的に対象を「作品」と判断し、鑑賞していたことに気付かされる。私たちの身の回りには、そんな風に無意識的に感じとっているものが、気付かないだけでたくさんあるのだろう。旅先で感じる「その土地らしさ」も、そういうものかもしれない。
今展に際し、南信会場である茅野市美術館での打合せ当日、前沢は諏訪湖を囲むように立地する4つの諏訪大社や、茅野の縄文のヴィーナスを見学し、この土地がどういった地域なのか考えたという。前沢の生まれ育った飯田市とは、またちがう歴史観を持っているだろうこの土地に生まれ育った参加者と一緒にワークショップを行い、そこから作品を作り出す。いったい、どんな作品を作り出してくれるのだろうか。意識の切りかわる瞬間をずっとみつめてきた前沢なら、その土地に住む者が無意識的に感じとっているものまでも作品に表出させてくれるにちがいない。
前沢知子の作品は、ワークショップ参加者の行為が軸となって制作される。室内に敷き詰められた布のうえで、全身を使って絵具と戯れる。布には参加者の足跡が付き、手形が付き、色は混ざり合いそのにじみから新たな色が生まれる。ワークショップ参加者の行為の痕跡が布上には無数にあふれている。ときには前沢自身の痕跡も残し、美しく色づいた画面となる。ワークショップ参加者の行為も、ただ自由にさせるのではなく、使用する色やその色を使用させるタイミング、道具、果ては絵具の溶き具合…そういったワークショップを取り巻くさまざまな要素を前沢が細やかにコントロールしながら巨大な絵画を描くように進めていく。画面がひとつの一体感を持っているのは、前沢が参加者、そしてその後作品となるワークショップの成果物に丁寧に寄り添い、進めているからである。参加者は、そんなことには気付かないまま、全身を使って絵具と戯れる体験を堪能し、その痕跡を布のうえに残していく。
そうしてできあがった痕跡の集合は、この段階ではただの「ワークショップの成果物」であり、ワークショップには不特定多数が参加するため、「作者」は意味を持たないともいえる。それが、前沢によって「何か」を拾いあげるようにトリミングされ、もしくはさらに大きな布や別の矩形になるように縫い合わされ、または額装や軸装、カーテンなど別の形式が持ち込まれ、展示されることによって、ひとつの「作品」となる。展示されたそれを「前沢知子の作品」として鑑賞することで、鑑賞者の視点・思考は変化し、新たな意味が生成され価値観は変化する。
今展では、さらにその作品のなかに入って鑑賞することができる。なかに入ればそこにはその土地を連想させる隠喩的なモノが、たとえば吊るし雛のように設置されており、その土地と美術館とをつなぐ新たな「場」が生まれている。その土地に育まれたワークショップ参加者によって作られた成果物が、前沢の手により今度はその土地の風土に満ちた場そのものを作り出す。そんな空間を体験した鑑賞者は、意識的・無意識的に抱えている土着の文化に気付き、それが新たな視点でその土地をみつめ直すきっかけとなるのかもしれない。
学生の頃、前沢は大学構内にある木の枝と枝の間に糸を詰める行為に没頭したという。美しく仕上げようというわけではなく、ただその枝と枝の「間」を視覚化していくように糸を詰める。そうすることによって、それまで気付かなかった枝と枝の「間」が顕在化する。空間に少し手を加えるだけで、まったくちがうものにみえてくる。卒業後すぐに行われた初個展では、画廊内の壁の隙間や、釘の穴に糸を詰めた作品を発表。前沢の行為によって隙間は顕在化し、その空間は、見慣れたものとはちがう新鮮なものとして鑑賞者の目に映り、意識の変化をもたらす。
ワークショップ参加者の行為が軸となって制作される近作も同様で、ただのワークショップの成果物だったものが、前沢が手を加えることによって意味を持ち、それをみる者の意識は変化する。作品について、「人びとがあらゆる事象を認知する段階で、意識が切りかわる瞬間である認知の境界に対する試み」と前沢自身が語るように、前沢の作品を通して私たちは無意識的に対象を「作品」と判断し、鑑賞していたことに気付かされる。私たちの身の回りには、そんな風に無意識的に感じとっているものが、気付かないだけでたくさんあるのだろう。旅先で感じる「その土地らしさ」も、そういうものかもしれない。
今展に際し、南信会場である茅野市美術館での打合せ当日、前沢は諏訪湖を囲むように立地する4つの諏訪大社や、茅野の縄文のヴィーナスを見学し、この土地がどういった地域なのか考えたという。前沢の生まれ育った飯田市とは、またちがう歴史観を持っているだろうこの土地に生まれ育った参加者と一緒にワークショップを行い、そこから作品を作り出す。いったい、どんな作品を作り出してくれるのだろうか。意識の切りかわる瞬間をずっとみつめてきた前沢なら、その土地に住む者が無意識的に感じとっているものまでも作品に表出させてくれるにちがいない。
丸山 綾(諏訪市美術館)
Exhibition Artists & Hall
Chino City Art Museum
2020/01/19 - 2020/02/09
終了しました。
茅野市美術館
- 〒391-0002
長野県茅野市塚原1-1-1 茅野市民館内 - [電話番号]0266-82-8222
- [開館時間]10:00~18:00
- [休館日]火曜休
- >会場の詳細を見る
- >Googleマップで場所を見る
出展作家
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