SHINBISM6 | シンビズム6 | 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ作家たち

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「シンビズム6 
信州ミュージアム・ネットワークが選んだ作家たち」展 
開催にあたって

信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)・長野県では、県内の公立、私立美術館やフリーのさまざまなキャリアの学芸員の共同企画による展覧会「シンビズム6」を開催いたします。

2022年に始動した信州アーツカウンシルは、自然災害やパンデミックを乗り越え、最初の節目である3年間の活動を果たすことができました。あらためて長野県内において活動する文化芸術の担い手の皆さん、支援していただいた関係者の方々の文化芸術・地域文化を次代へつなげていこうという強い思いを込めた力添えに感謝申し上げます。

この間、シンビズムも信州アーツカウンシルの地域創造・交流プログラム事業として信州ゆかりのアーティストのグループショウを核としながら、新たにリサーチ系アーティストによる滞在・地域調査に基づいた作品制作や、環境に配慮した作品制作・展示什器の利活用、スウェーデン国立美術館×DNPミュージアムラボ(大日本印刷株式会社)など他団体との協働、障がいのある方への合理的配慮を学ぶ研修、そして長野県「アートを活用した学び」推進事業による県内小・中学校での「対話鑑賞」の普及など、美術館から地域へアートをひらく活動に注力してきました。そして今年は、「地域と美術」を全体テーマに県内3会場でのグループショウと2エリアでのサテライト小展示、全国でも稀有な存在である泰阜村の学校美術館での学校連携プロジェクトに挑みます。

あらためて信州アーツカウンシルが掲げる3つのミッション「長野県全域において文化芸術活動の創造力・発信力を高める」「文化芸術活動のポテンシャルを社会の様々な領域に拡げる」「長野県内の文化芸術活動が持続的に発展する環境を醸成する」に立ち返ると、今年のシンビズムは、2つ目の「文化芸術活動のポテンシャルを社会の様々な領域に拡げる」に正面から取り組むことになります。簡単に成果のみえるものではありませんが、私たちはこの3年間、アーツカウンシルの活動をきっかけに担い手の方々が出会い、次々と新しいコミュニティが生まれる現場を目撃してきました。シンビズムにおいても、参加アーティストをはじめ、学校の先生方、関係団体、そして地域のサポーターの皆さんとともに、新たな出会いやエピソードを積み上げながら、文化芸術活動のポテンシャルを教育や福祉、地域振興、観光の領域に広げていけるようワーキンググループメンバーとともに私たちも並走して参ります。

シンビズムにご協力いただいた皆様に感謝するとともに、引き続きのお力添えをお願いいたします。

主催者代表
信州アーツカウンシル長
津村 卓

Brief Message from the Organizers of
the “Shinbism 6 Exhibition --
Artists Selected from the Shinshu Museum Network”

Shinshu Arts Council (Nagano Prefectural Cultural Promotion Foundation, Arts Council Promotion Bureau) in cooperation with the Nagano Prefectural Government, is going to host the sixth art exhibition, “Shinbism 6,” jointly planned and produced by not only curators from public and private institutions, but also freelance curators having various backgrounds in the prefecture. Shinshu Arts Council, which started in 2022, has achieved the first milestone of three years of activities, overcoming natural disasters and pandemic. We would like to express our deepest gratitude once again to those who have carried out our cultural and artistic activities in Nagano Prefecture, and also to those who have supported us for their support with their strong desire to hand down their cultural arts and local culture to the next generation.
Meanwhile, Shinbism, as a project of Regional Creation and Exchange Program by Shinshu Arts Council, featuring group exhibitions dealing with works by artists connected to Shinshu, has focused on activities to spread arts from museums to local communities, including the production of artworks through artist-in-residence research in the host cities and towns, environmentally friendly production of works of art, as well as environmentally friendly utilization of display furniture, collaboration with other organizations, such as National gallery of fine arts of Sweden, Dai Nippon Printing Co.,Ltd. and Museum Lab Co., Ltd., training on providing reasonable accommodations for persons with disabilities, and dissemination of the “Art Appreciation through Dialogues” in elementary and junior high schools in the prefecture, based on the “Learning Promotion Project utilizing Arts.” And this year, with the overall theme, “Region and Art,” we will try to hold group shows at three venues in the prefecture, satellite small exhibits in two areas, and drive forward the School Partnership Project in the Art Museum of Yasuoka School in Yasuoka Village, that is unusual throughout the nation.
Returning, once again, to the three missions that Shinshu Arts Council established: “raising the creativity and transmission power of cultural and artistic activities throughout Nagano Prefecture,” “spreading the potential of cultural and artistic activities to various areas of society,” “nurturing an environment for sustainable progress of cultural and artistic activities within the prefecture,” this year, Shinbism will be addressing head-on the second mission, “spreading the potential of cultural and artistic activities to various areas of society.”
It’s not easy to see results, however, for these three years, we have witnessed the scenes where culture bearers met each other and new communities were born one after another, having been triggered by the activities of the Arts Council. As for the Shinbism project, we will work hard together with the members of the working group, so that we can expand the potential of cultural and artistic activities into various areas, including education, welfare, regional development and tourism, while accumulating new encounters and episodes with participating artists, school teachers, people from related organizations and local supporters.
We would like to express our gratitude for everyone’s support and cooperation toward the materialization of this Shinbism project, and sincerely appreciate your continued support in the future.

Representative of the Organizers,
Director of the Shinshu Arts Council
Tsumura, Takashi

OVERVIEW開催概要

主催

信州アーツカウンシルロゴ

信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)、長野県

共催

小海町教育委員会、木祖村教育委員会、泰阜村教育委員会、(一財)須坂市文化振興事業団、塩尻市教育委員会

後援

須坂市、須坂市教育委員会

助成

文化庁

令和七年度文化庁文化芸術創造拠点形成事業、一般財団法人地域創造

顧問

笠原美智子(一般財団法人長野県文化振興事業団理事、長野県立美術館長)

運営アドバイザー

石川利江(ISHIKAWA地域文化企画室代表)

エデュケーショナルアドバイザー

三澤一実(武蔵野美術大学教授)

企画・構成

信州ミュージアム・ネットワーク「シンビズム」ワーキンググループ

  • 工藤美幸(佐久市)、
  • 由井はる奈(佐久市立近代美術館)、
  • 宮下真美(ギャラリー1045)、
  • 名取淳一(小海町高原美術館)、
  • 中嶋実(小海町高原美術館)、
  • 鈴木一史(小海町高原美術館)、
  • 圓山佐登子(小海町)、
  • 清水雄(上田市立美術館)、
  • 山極佳子(上田市立美術館)、
  • 大塚菜々美(上田市立美術館)、
  • 佐藤聡史(丸山晩霞記念館)、
  • 山﨑麻由(東御市)、
  • 佐野悠斗(東御市)、
  • 小沢和実(東御市)、
  • 高野真希(星くずの里たかやま黒耀石体験ミュージアム)、
  • 伊能あずさ(川越市立美術館)、
  • 鷹野雪菜、
  • 山岸吉郎(イルフ童画館)、
  • 河西見佳(イルフ童画館)、
  • 酒井重明(市立岡谷美術考古館)、
  • 前田忠史(茅野市美術館)、
  • 中田麻衣子(茅野市美術館)、
  • 平林壮太(原村教育委員会)、
  • 小松由以(高遠町公民館)、
  • 川島周(辰野美術館)、
  • 小林一博(泰阜村立学校美術館)、
  • 矢ケ崎結花(元諏訪市美術館)、
  • 伊藤幸穂(木曽ミュージアムサポート)、
  • 坂口佳奈(木祖村教育委員会)、
  • 石井健郎(塩尻市立平出博物館)、
  • 三澤新弥(安曇野市教育委員会)、
  • 塩原理絵子(安曇野市教育委員会)、
  • 武井敏(公益財団法人碌山美術館)、
  • 冨永淳子(安曇野髙橋節郎記念美術館)、
  • 大竹永明、
  • 田中想子(須坂版画美術館)、
  • 中村綾子(世界の民俗人形博物館)、
  • 五味大樹(世界の民俗人形博物館)、
  • 田中新十郎(田中本家博物館)、
  • 布谷理恵(千曲市アートまちかど)、
  • 越智波留香(おぶせミュージアム・中島千波館)、
  • 水橋絵美(中野市立博物館)、
  • 小林宏子(前中野市立博物館)、
  • 阿部澄夫(一般社団法人一本木公園バラの会信州中野銅石版画ミュージアム)、
  • 関千尋(山ノ内町立志賀高原ロマン美術館)、
  • 小野佳奈、
  • 松井正(長野県立美術館)、
  • 梨本有見(一般財団法人長野県文化振興事業団)、
  • 早川綾音(信州アーツカウンシル)、
  • 小澤貴弘(信州アーツカウンシル)、
  • 伊藤羊子(信州アーツカウンシル)

企画・運営

信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)

  • 津村 卓、
  • 土屋孝夫、
  • 岩井千里、
  • 野村政之、
  • 伊藤羊子、
  • 清水康平、
  • 佐久間圭子、
  • 早川綾音、
  • 小澤貴弘、
  • 保谷有美

お問い合わせ

信州アーツカウンシル ((一財)長野県文化振興事業団アーツカウンシル推進室)

電話 026-223-2111

メール info@shinbism.jp

STATEMENTステートメント

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シンビズムが向き合う「地域と美術」

2016年4月、前年長野県が宣言した「文化振興元年」の中核となる「長野県芸術監督団事業」がスタートした。4つの芸術分野のうち美術監督に就任した故本江邦夫氏のもとに県内の学芸員20人が集まり、同年11月25日に第1回ワーキンググループ会議が開かれ、コンテンポラリー=現代美術を取り上げることが本江氏から提案され、次回までにグループショウで紹介したい若手作家のポートフォリオを作成してくることが確認された。「シンビズム」という言葉が生まれる前夜、少し緊張した、しかし大きな海原に船を漕ぎ出す意気揚々とした気分を思い出す。20名の学芸員それぞれの心に明らかに本江氏の意思が船を導く灯台の光のように感じられた瞬間でもあった。あの時から来年で10年を迎える。

本江氏は10年続ければ他県のモデルになると語っていた。「シンビズム6」を含めるとこの10年で、「シンビズム」6回、シンビズムの作家のその後を追い振り返る「Reシンビズム」2回、合計8回の展覧会を開催してきたことになる。紹介した作家は、85名(のべ117名)、関わったワーキンググループメンバーはのべ263人にのぼる。この数字をどうとらえるかはさまざまな観点があり一概に評価はできないが、長野県というフィールドでの10年間の活動のエネルギーは感じてもらえるのではないかと思う。

「10年続ければ」は、10年継続することが簡単なことではないことを示している。10名から20名の現代美術の作家に出品いただくグループショウをひとつ開催するだけでも、莫大なエネルギーが必要なことはいうまでもない。まして、特性や事情が異なる会場が県内で複数箇所となるとなおさらである。なぜ10年続けることができたのか。ひとことでいえば作家とワーキンググループメンバー、事務局をはじめ関わったすべての関係者の「熱意」だろう。それは情緒的で抽象的かもしれないが、ほかに言葉が見つからない。シンビズムの公式デビューとなった2017年5月18日の記者発表で本江氏が語った「わたくしたちの心構えとしては、現代美術というものが、どこか遠く、上のほうからやってくるものではなく、わたくしたちの日常的な生活のなかにあるということを、学芸員の熱意と出品作家の熱意を通じてわかってもらいたいと思っています。」※1は、今もメンバーの心にあり続け、その10年の最後に位置する展覧会が「シンビズム6」なのである。

2024年に松本市で開催された「第72回全国博物館大会」の分科会1:「地域の魅力発見~高付加価値化への取り組み~」で「県内学芸員の共同企画展覧会『シンビズム』で発見する地域の魅力」と題し報告する機会をいただいた。これまでのシンビズムの取り組みを、作家による地域資源の再発見、展示による建築文化の再発見、県内会場巡回によるアートツーリズムの視点で報告し、あらためて地域と美術について考える機会となった。報告が終わるといくつかの美術館の関係者にお会いし、半年後には報告を聞いた美術館関係者が遠路訪ねてきてくださったことからも、他県への影響と「地域と美術」への関心を実感することとなった。

これまでのシンビズムは「地域と美術」をどのようにとらえて実践してきたか。20名の学芸員がそれぞれ1名の作家を選出して開催した「シンビズム1」から、長野県ゆかりの作家を選出する点で長野県という地域性を考え続けてきた。作家の制作に現れる地域性は展覧会ごとに発行された図録に詳しいが、ここでは展示会場に焦点を当ててみていく。

「シンビズム1」は県内4会場で開催されたが、美術館施設ではない木曽町の御料館が会場となった。御料館は、1927年に建築された旧帝室林野局木曽支局の庁舎で、木曽エリアでは最大のアール・デコ様式の意匠が特徴的な洋風建築物である。小野寺英克、角居康宏、瀬尾誠、千田泰広、矢島史織が展示した。美術展示が想定されていないので、展示上のさまざまな制約をクリアしなければならなかったが、既存の展示物や什器の利用、壁に頼らない展示方法は、かえってそのことが展示の独自性とサイトスペシフィックな展示空間を生んだ。また、千田が地下室を片付け清掃し展示空間として蘇らせたことは、本展でテーマのひとつになっている空き家の活用に通じる行為としても特筆すべきである。

「シンビズム3」中信会場は、漆芸家、髙橋節郎の生家で、安曇野の昔ながらの暮らしを今に伝える文化財として、国の有形文化財に登録されている旧髙橋家住宅主屋と南の蔵(安曇野市)が会場となった。大曽根俊輔、眞板雅文、米林雄一が展示した。髙橋家住宅主屋は偶然にも互いに旧知の眞板と米林の展示となった。安曇野髙橋節郎記念美術館から続く水を取り入れた外部空間と住宅の茅葺屋根裏の材料と呼応するような眞板の作品、薄明りの土間空間に静謐な時間の流れを感じさせる米林の作品は「まるでその場のために制作したのではないかと思われる展示」※2となった。大曽根は南の蔵の2層吹き抜けの空間を生かし、モチーフの動物の生命感をダイナミックに展開していた。北信会場は一本木公園(中野市)が会場となり、移築された明治中期の洋風建築である中野小学校旧校舎・信州中野銅石版画ミュージアムと一本木公園展示館および公園内全体を使った展示となった。柿崎順一、榊原澄人、増田洋美が展示した。柿崎と増田は建物の内部のみならず公園内の外部空間にも作品を展開し、公園風景を一変させた。榊原は小学校の記憶を呼び覚まし、現代と交信するような展示を試みた。

ほかにも長野県最初の公立美術館として1956年に開館した諏訪市美術館、1982年に開館した信州新町美術館(長野市)など、長野県の美術館の歴史を刻んできた美術館も会場となった。さらに各地域の美術館では、シンビズムの作家以外に地域の作家の常設展があることで、地域の文化に触れることができた。たとえば、丸山晩霞を所蔵する丸山晩霞記念館(東御市)、有島生馬記念館を併設する信州新町美術館、縄文資料を展示する辰野美術館(辰野町)、山本鼎を所蔵する上田市立美術館など、地域ゆかりの作家の研究が進む美術館の所蔵品をあらためてみることは、地域の美術の文脈でシンビズムの作家をとらえることにつながる。さらに、美術館などの展示施設や野外彫刻などの芸術作品を巡ることで地域の文化に触れるアートツーリズムの考え方も、県内各地を会場とするシンビズムの特徴であり「地域と美術」を考えるきっかけになるだろう。

さて、あらためて「シンビズム6」のテーマは「地域と美術」である。本展はグループショウと学校連携プログラムの2部構成により、会場エリアの特性に合わせた個別テーマを設定し、テーマごとにふさわしい作家を選抜した。各作家の詳細は作家と学芸員のテキストに譲るが、前述同様、展覧会場に焦点をあて作家を概観する。

「美術館から地域へ、多様な人々にひらく」をテーマに小海エリアでは、島州一、
下平千夏、細萱航平を紹介する。安藤忠雄氏設計の小海町高原美術館を中心に小海町内へと展示を広げる。島は、長野に居を移したことで浅間山との関係が構築された。本展には浅間山が投影され原寸大にトレースされた《私のシャツ》シリーズが出品され、浅間山を望む小海町ならではの展示となる。下平は、拡張された身体として建築をとらえ、身体と建築をつなぐ作品を日常にある水糸や輪ゴムなどの素材で制作してきた。本展では、美術館の空間を読み込んだ作品を発表し、さらに町内施設への展開を予定している。細萱は、地質学と彫刻を学んだ作家である。小海町と近隣をリサーチし、新作を発表する。美術館が建つ地域で887年におきた北八ヶ岳の大崩壊による岩屑流の痕跡や、地域で産出する鉱物の作品化、町内への作品設置と教育普及活動を予定している。

「空き家活用、地域AIRとの連携」をテーマに木曽エリアでは、宇賀神拓也、小川格、波多腰彩花を紹介する。木曽ペインティングスが空き家の状態から現在の展示スペースへと蘇らせた旧藤屋旅館(木祖村、詳細はp.40−43「木曽ペインティングスの活動、藪原宿での成果」を参照)を中心にサテライト展示として、塩尻市立平出博物館、木曽町御嶽山ビジターセンターさとテラス三岳、妻籠宿の松川家(南木曽町)の3ヵ所、直線距離にして80kmもの広大なエリアで展開する。東京都出身の宇賀神は、朝日村に移り住み、農業を営みながら同村をフィールドに写真作品を制作してきた。発掘調査に立ち会い、影響を受ける。近年は、考古学的なモチーフをテーマにした作品に取り組んでいる。展示会場
となる和室特有の畳や障子の仕切り線をフレームとして用いることでインスタレーションを展開しようとしている。小川は、無意識を描き出す日々のドローイングをもとに柔らかな絵画空間をもつ作品や、インスタレーションなどを制作してきた。並行して学校や美術館での教育普及活動にも取り組み、作者、作品、鑑賞者が対等な関係にあるという姿勢を示す。小川が少年時代に夏休みの多くを過ごした妻籠宿も展示会場となる。波多腰は、手捻りによる白い陶芸により小さく繊細な作品をつくっている。作品は距離感やリズムに着目し配置されるが、そこに生まれる空気や呼び起こされる記憶へ関心が移っていったことから、展示空間をどのように読み込んで展示されるかが注目される。

「移築建物の活用、地域による連携小展示」をテーマに須坂エリアでは、木村不二雄、戸矢崎満雄、堀内袈裟雄を紹介する。須坂アートパーク内にある、須坂市に点在していた歴史的価値の高い建造物を移築・復元した施設「歴史的建物園」と「須坂版画美術館・平塚運一版画美術館」が会場となる。木村は、草木染友禅に出会い長野県に移住した。草木染友禅は植物からつくった染料による信州独自の技術である。独自のモチーフも注目できるが、信州独自の技術を駆使している点で地域と美術のひとつの側面をみせている。戸矢崎は、自ら収集した不要となったボタンを使い、展示する空間に合わせたインスタレーションを発表してきた。本展では須坂藩医が1865年に建てた居宅、元板倉家でボタン以外の作品を含め展示する。さまざまな空間と対峙してきた戸矢崎の新たな展開が期待できる。「シンビズム3」から信州の戦後美術史を考えるうえで重要な物故作家である眞板雅文、天野惣平、吉江新二、辰野登恵子、小松良和、松澤宥を紹介してきたが、本展では堀内袈裟雄を取り上げる。堀内は長野市に生まれ、東京藝術大学卒業後、読売アンデパンダン展を中心に作品を発表し注目を集める。その後ニューヨークに10年滞在し現代美術に触れ、ドリッピングによる表現を模索した。本展では各時代の代表作品に加え、風景画や陶芸作品が歴史的建物園に展示される。地域の美術を美術史のなかで再検証することは、本展のテーマの重要な側面でもある。

「地域と美術」の未来を考えるとき、地球温暖化、気候変動への対応、未来を担う子どもたちへの教育普及活動はシンビズムの活動の前提となる。人びとの暮らしが自然とともにある信州において、異常気象や気候変動は、災害の危険そのものであるとともに、農業をはじめ日常生活を支える産業や文化にも強い影響を与えるという危惧から、長野県は2019年、全国の都道府県に先駆けて「気候非常事態宣言」を発した。2023年には金井直氏(信州大学人文学部教授)とロジャー・マクドナルド氏(インディペンデント・キュレーター/NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウディレクター)を案内人に、信州アーツ・クライメート・キャンプがスタートした。文化芸術の視点から気候変動や地球環境の課題を見つめ、信州・長野県において行われている取組や取り組む人と学び、ともに考え、変化していくコモンスペースをつくっていこうというプロジェクトで、第3回目の会議は「地球の今、美術館の明日~持続可能な未来をめざして~」と題され、シンビズムワーキンググループとしてディスカッションに参加した。

レクチャーでは塩見有子氏(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウディレクター)から、アートと気候変動を考える切り口としてアーツプラクティス(実践)とアーツシステム(産業)の2つが示された。「アーツプラクティスはアーティストの作品を通じて環境のことを考えるように促す、あるいは別の視点を作る、何かメッセージを持ったようなもの」※3で、アートと気候変動を考えるうえでまず思い描く切り口だろう。過去のシンビズム出品作家では、自らカリフォルニアの砂漠を購入し、砂漠の緑化をランドアートのプロジェクトとして提示したYoshimiHayashi、廃屋の豊かな「解体」を実践し、廃材を展示什器に利用、展示後の流通を視野に入れた持田敦子、展示を行う地域のリサーチを行うなかで得た「カラマツ」というキーワードが環境問題への示唆を含む9人の視点で語られ、インタビューを掲載した冊子と映像で作品化した横山昌伸などがいた。

しかし、会議で焦点となったのはアーツシステムであり、二酸化炭素を出し続けるアート界のさまざまな活動に対してどのようなアプローチができるかという点であった。美術館の建物の維持、作品の輸送、作品の梱包、職員の移動や観客の移動などに対して二酸化炭素排出量を削減する取り組みを具体的に考える機会となり、意識の向上の必要性を確認した。その後、シンビズムの会場館が施設維持のための電力を再生可能エネルギーへ切り替えたこと、移動に使う公用車の二酸化炭素排出量を算出し意識を高めたことなど、小さな一歩を踏み出すことができたといえよう。

シンビズムは、対話鑑賞に重点を置いた教育普及活動を積極的に行ってきた。2023年度からは長野県「アートを活用した学び」推進事業のなかで、学校での対話鑑賞の普及を目的として教員向けワークショップの実施やモデル校へのファシリテーター派遣を進め、子どもの未来を育む事業を展開している。本展の第2部では「学校と美術、レガシーを未来へ」をテーマに泰阜村立学校美術館で学校連携プログラムが実施され、第1部のグループショウでは対話鑑賞が予定されている。

長野県の自然環境や気候が作家に何らかの影響を与え作品の特殊性を生むことは、現代美術にも認められる。芸術の創造力そのものは人間の本性に根ざしていて、地域の違いにより作品の本質が左右されることはないにしろ、少なからずシンビズムを通じてその作品の特殊性を見出してきた。作品がある場所に置かれる以上、場所と作品の関係性は作品の内容から空間全体の構成まで影響することになる。場所をいかに発見し展示空間として成立させるか、地域の歴史や文化、環境をいかに取り込んでいくかは、シンビズムの中心的テーマであろう。「シンビズム6」の出品作家とワーキンググループは「地域と美術」を再考し、その場所でしか体験しえない展示を実現するだろう。われわれは地域の持続性と未来を担う子どもたちを念頭に今後も地域の美術を紹介し、「地域と美術」という普遍的なテーマと向き合っていくことになる。

  • ※1『シンビズムの軌跡』p13 (2025、信濃毎日新聞社)
  • ※2『シンビズムの軌跡』p109眞板 雅文氏ご遺族眞板充江氏の記述(2022、信濃毎日新聞社)

小海町高原美術館 中嶋 実

Shinbism Faces “Region and Art”

The Shinbism project will celebrate its 10th Anniversary next year. The late Art Director, Motoe, Kunio said if it continued for 10 years, it would become a model for other prefectures. “Shinbism 6” exhibition is positioned at the last of the series that has been held for the past 10 years. We have been thinking about the “Region and Art” and putting the concept into practice until now.

“Shinbism 1” exhibition was held at the Kiso Town Goryokan which is not an art museum facility, a unique exhibition was presented featuring the display without relying on walls, and the utilization of the basement. For “Shinbism 3” exhibition, the Takahashi Setsuro Art Museum of Azumino was used as a venue, and the exhibited works were so impressive as if they were resonating with the interior and exterior spaces. Besides, at the Ippongi Park in Nakano City, the exhibition was produced utilizing the relocated building of former Nakano Elementary School, and also the entire space of the park. It was the first attempt in the park in terms of the approach to the memory of the school and artistic planning of display of contemporary works of art in the park scenery.

The theme of “Shinbism 6” is “Region and Art.” It consists of two parts, i.e. the “Group Show” and the “School Partnership Program,” and further, individual themes were set and suitable artists were selected according to the characteristics of the areas where the venues are located. In Koumi area, SHIMA Kuniichi, SHIMODAIRA Chinatsu and HOSOGAYA Kohei will be introduced as artists under the theme of “From Museum to Local Community, Open to a variety of People.” The display will be unfolded into Koumi-machi Town, starting from the Koumi-machi Kougen Museum of Art designed by famous Ando Tadao as a center of the exhibition. In Kiso area, the works of UGAJIN Takuya, OGAWA Itaru and HATAKOSHI Ayaka will be introduced under the theme of “Utilization of Empty Houses, Collaboration between Local Community and Artist-in-Residence (AIR) Program.” Their works will be spread at four venues scattered in the vast area with straight line distance of 80 km from the “Former Fujiya Ryokan” as a focal point in Kiso Village. In Suzaka area, the works of KIMURA Fujio, TOYAZAKI Mitsuo and HORIUCHI Kesao will be exhibited under the theme of “Utilization of Relocated Buildings, Satellite Exhibits by the Local Community.” Its venues are “Historical Building Park” and “Suzaka Hanga Museum,” located in the Suzaka Art Park.

When we put a thought about the future of “Region and Art,” the countermeasures to the global warming and the climate change, and educational dissimilation activities for children who must carry the future, should be the premise of the Shinbism activities. Shinshu Arts- Climate Camp, which started in 2023, provided participants the prime opportunities to think concretely about the approach to reduce carbon dioxide emissions from the point of view of the maintenance of the museum buildings, the transportation of works of art, the packing of works of art, the movement of staff and spectators etc., and it has led to raising awareness among the participants. Furthermore, in the second part of the exhibition, the School Partnership Program will be implemented at the Art Museum of Yasuoka School in Yasuoka Village, under the theme of “School and Art, Legacy to the Future.”

At this Shinbism exhibition, there will surely be materialized the exhibit that cannot be experienced in any other places but here. We will continue to face the universal theme of “Region and Art,” in the future, keeping in mind the regional sustainability, and children who must carry our future.

Koumi-machi Kougen Museum of Art Nakajima, Minoru