[ 絵画 ]
母袋 俊也
MOTAI Toshiya
- 1954
- 長野県上田市生まれ
- 1978
- 東京造形大学美術学科絵画専攻卒業
- 1983 − 1987
- フランクフルト美術大学/シュテーデル シューレ R・ヨヒムス教授に学ぶ
- 1986 −
- 複数パネル絵画様式の展開
- 1988 −
- 立川にアトリエを定め、制作をはじめる
戸外でのスケッチの再開
- 1993
- 東京造形大学専任講師、1994 助教授、2000 教授
- 1995
- アトリエを立川から藤野に移す
偶数パネル作品をTA系と命名
- 1996
- 奇数パネルでの制作
- 1999 −
- 野外作品「絵画のための見晴らし小屋」制作
- 2001−
- Qf( 正方形フォーマート)系の展開
- 2019
- 東京造形大学退職、名誉教授
- 2020
- 嵯峨美術大学客員教授
さて一体「絵画の位置」「絵画の現出する場」とは?絵画/像は「現実・リアルの世界」と「精神だけの非物質の世界」のこの二つの世界のわずかに重なり合う両義の場に、薄い膜として生成し、精神の世界を背景にリアル、現実の世界に働きかけるのだと僕は考えている。〈Qfキューブ〉が模索しようとするのはその架空の空間性であり、そこでは無数の像が積層され立方体を形成しているのだ。
今回、郷里の山を描いた《TA・TARO》は初めての帰還、美術館の北側ガラス面上で「太郎山」は〈膜窓〉によって切り取られ、二つの「像」は交歓をはたすことになる。
上田会場の作品展示
© シンビズム / 撮影:大井川 茂兵衛
© シンビズム / 撮影:大井川 茂兵衛
© シンビズム / 撮影:大井川 茂兵衛
おもな作品発表歴
- 1984
- 個展「Toshiya MOTAI ZEICHINUNGEN」(ギャラリーヴィレムス/ドイツ)
- 1990
- 個展「母袋俊也 絵画・水彩」(ストライプハウス美術館/東京都)
- 2003
- 「第2回大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2003」(新潟県)
- 2006
- 個展「風景・窓・絵画アーティストの視点から:母袋俊也の試み」(埼玉県立近代美術館/埼玉県)
- 2007
- 個展「母袋俊也〈絵画のための見晴らし小屋〉水平性の絵画〈TA〉の流れ」(辰野美術館/辰野町)
- 2012
- 「コレクション×フォーマートの画家 母袋俊也 世界の切り取り方−縦長か横長か、それが問題だ」(青梅市立美術館/東京都)
- 2014
- 個展「母袋俊也 絵画《TA・KO MO RO》−《仮構・絵画のための見晴らし小屋KOMORO》」(小諸高原美術館/小諸市)
- 2017
- 個展「母袋俊也 Koiga-Kubo 1993 / 2017そして
〈Qf〉」(奈義町現代美術館/岡山)
- 2019
- 個展「母袋俊也 浮かぶ像−絵画の位置 退職記念展」(東京造形大学附属美術館ほか/東京都ほか)
- ほか著書・論文多数
普遍的なものとの出会い
Encounter with Universality
母袋は、1954年長野県上田市に生まれ、74年に東京造形大学美術学科絵画専攻に入学。卒業の5年後に渡独し、西ドイツ時代のフランクフルト美術大学で、R・ヨヒムス教授に絵画・美術理論を学んだ。87年までドイツで活動し、その間、講演や個展を開催しながらロシアやヨーロッパ各地をめぐり、日本と西欧の美術におけるフォーマート(絵画の外形、縦横比)の役割に注目する。帰国後は立川のアトリエで制作を開始。東京造形大学の講師となり論考を深めつつ、次々と作品を発表した。この頃の作品群は、偶数連結、余白、横長フォーマートの特徴をもち、TAchikawa(立川)に因んで〈TA〉系と呼ばれるようになった。偶数枚のパネルによって成り立つ絵は中心をもたず、そこに向けられた視線は画面の一点に集中することなく移動し続ける。
対して95年からは、中心性をもつ〈奇数連結〉の作品、続いて正方形フォーマートをもつ〈Qf〉系が展開されていく。Quadrat(正方形)とfull(充満)の語から命名された〈Qf〉系では、垂直・水平の双方において中心をもち、余白はなく、色彩と筆致で充満した画面制作が試みられている。アンドレイ・ルブリョフの《聖三位一体》と阿弥陀如来という信仰の対象をモデルに、鑑賞者の視線が画面上をさまよい続け、外に脱出しない構図だ。縦にも横にも閉じたこの絵画では、驚くことに手前に、鑑賞者に向かって押し出されてくる空間性が模索されている。
今回の展示では、母袋の生まれ育った上田を会場として、太郎山を望む広場に〈絵画のための見晴らし小屋〉系作品である《ヤコブの梯子》が設置される。これは母袋の制作テーマである「絵画におけるフォーマートと精神性」の一翼を担う作品・装置である。展覧会の度に会場に合わせて構想・設置される〈絵画のための見晴らし小屋〉系作品は、特定の景色から風景を矩形に切り取って見る人物の行為を強調し、太古から続く普遍的な像・Bild、つまりわれわれが風景と呼ぶものへの気付きを与える。
同じ題材は、2階展示室に《M436 TA・TARO2》としても展開されている。そこでの太郎山は、コマ割りのようにいくつかの画面に分断されている。ひとつの風景のなかで、コマごとに朝・昼・夕・夜の場面転換を思わせる色彩の変化を見せ、また画面が白飛びしたような余白に山の稜線だけが伸びるカットが交互に配置されている。異時同図法は時の経過を物語る際に使われる古典的な絵画技法であるが、ここで重要なのはたったひとつの太郎山が時間を超越して存在していることであろう。山を見る個々人の地点や時点とは関係なく、その風景は人びとが暮らす平地を懐に悠然と横たわっている。
風景における視線の双方向性は、母袋がヨーロッパの教会で感じた、イコノスタシス(至聖所[しせいじょ]と信者の祈祷所を隔てる、イコンで覆われた壁)へ注がれる人びとの視線と、イコンからこちらを見返す聖人のまなざしに重ねて語られている。
そして、それらの視覚体験に基づく《絵画のための見晴らし小屋》や〈TA〉系の構想は、母袋自身が「今後の課題」と呼ぶ〈Qf〉系に受け継がれている。《M436 TA・TARO2》では時間を超越したものは描かれた太郎山であり、〈Qf〉系では絵画の空間自体が鑑賞者に向かってきていた。近代の絵画が風景を絵に還元し、絵を絵たらしめる鑑賞者のあり方を問題にしてきたことに対し、母袋の意識は絵画そのものに向かっている。絵画が私たちを鑑賞者にする、ともいえるだろうか。
理論に裏打ちされた母袋の絵画は整然とした冷静さに満ちているが、決して硬質ではなく、有機的なやわらかさをもっている。三人称的な神の視点ではなく、あくまで風景に見守られながら制作を進めたひとりのアーティストとしての視点がそこにはある。
近代以降、拡張する個人主義によって見るもの聞くものすべてが〝わたくし〟の投影となり、自分すべてを自らで引き受けなければならなくなったわれわれにとって、変わらずこちらを見つめる他者がいることは、それ自体が救いかもしれない。
山極 佳子(上田市立美術館)
MOTAI Toshiya is a painter, who continues to produce his works under the theme of “Format (that is, the dimensions and aspect ratio of a painting) and Spirituality in Painting.” The works of the TA series having an oblong format, which he started producing after coming back from studying in Germany, generated the idea of the Qf series having a quadratic format. Both of them developed respectively in their own ways, and question the superiority and universality, which paintings should essentially embrace in themselves.
This time, his work dealing with Mt. Taroyama in Ueda, where MOTAI was born, is on display as well. Just as we view landscapes, the landscapes themselves, which have continued to exist from ancient times, “keep their eyes on us” as well. MOTAI says, this very principle of landscapes is what contemporary painting needs to embrace.
Yamagiwa, Yoshiko / Ueda City Museum of Art
[上田会場] 終了しました
2021.2.13sat - 3.14sun
上田市立美術館
9:00-17:00休館日 = 火曜日(祝日の場合は翌日)
入館料 = 当日券:一般500(400)円、高校生以下無料
※ ( ) 内は20名以上の団体、障害者手帳携帯者とその介助者1名は無料
長野県上田市天神3丁目15-15 サントミューゼ内電話 0268-27-2300