[ 絵画 ]
辰野 登恵子
TATSUNO Toeko
- 1950
- 長野県岡谷市生まれ
- 1974
- 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専門課程油画専攻修了
- 2004
- 多摩美術大学教授
- 2014
- 逝去(64歳)
技法は自然でありたいですね。油絵の具のようなオーソドックスな素材にあくまでもこだわって、それでだれも見たこともない空間を表現できたら最高です。
(Text partly omitted.)
It was said that drawing shadow or volume was taboo in abstract painting. However, I allowed myself to revive the traditional or illusionistic way like creating depth through illusion in my painting, depending on the situation, from which hostile misunderstandings arose about me such as, “Why are you still painting like this?” The reason why I did it like that is because I realized my painting had come to a point beyond the category of what is referred to as abstract painting. Painting technique should be natural. It would be my pleasure if I could create a space which no one has ever seen, sticking to the use of orthodox materials such as oil colors.
上田会場の作品展示
© シンビズム / 撮影:大井川 茂兵衛
© シンビズム / 撮影:大井川 茂兵衛
おもな作品発表歴
- 1971
- 「コスモス・ファクトリー」(村松画廊/東京都)
- 1972
- 「第7回ジャパン・アート・フェスティバル展」(東京セントラル美術館、メキシコ国立自治大学科学芸術博物館、アルゼンチン国立美術館)
- 1973
- 「辰野登恵子個展」(村松画廊/東京都)
- 1979
- 「第11回東京国際版画ビエンナーレ展」(東京国立近代美術館、国立国際美術館/大阪府、北海道立近代美術館)
- 1984
- 「現代美術への視点―メタファーとシンボル」(東京国立近代美術館、国立国際美術館/大阪府)
- 1987
- 「辰野登恵子 ペインティング1984 - 87」(ファビアン・カールソン・ギャラリー/イギリス、アート・ナウ・ギャラリー/スウェーデン)
- 1989 − 1990
- 「ユーロパリア‘ 89ジャパン」(ゲント市立現代美術館/ベルギー)
- 1990
- 「ジャパン・アート・トゥデイ-あいまいなパースペクティヴ、ヴィジョンの変容」(ストックホルム文化センター/スウェーデン、シャーロッテンボー現代美術館/デンマーク、ヘルシンキ市立美術館/フィンランド、レイキャビク市立美術館/アイスランド)
- 1992 - 93
- 「70年代日本の前衛−抗争から内なる葛藤へ」(ボローニャ市立美術館/イタリア、世田谷美術館)
- 1994
- 「戦後日本の前衛美術」(横浜美術館、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館/アメリカ、サンフランシスコ近代美術館/アメリカ)
- 1995
- 「辰野登恵子 1986 -1995」(東京国立近代美術館)
- 2002
- 「未完の20世紀美術がのこすもの」(東京国立近代美術館/東京都)
- 2007
- 「2007ヘイリ・アジアプロジェクト2〈日本現代芸術祭〉」(ヘイリ芸術村/韓国)
- 2010
- 「Beyond the Border 日中当代芸術交流展」(Tangram Art Center 7angrm /上海)
- 2012
- 「与えられた形象−辰野登恵子/柴田敏雄」(国立新美術館/東京都)
- 2013
- 「ミニマル/ポストミニマル−1970年代以降の絵画と彫刻―」(宇都宮美術館/栃木県)
- 2016
- 「宇都宮美術館コレクション展 特集展示 辰野登恵子 愛でられた抽象」(宇都宮美術館/栃木県)
- 2018 − 2019
- 「辰野登恵子ON PAPERS:A Retrospective 1969 - 2012」(埼玉県立近代美術館、名古屋市美
術館)
- 2018
- 「起点としての80 年代」(金沢21世紀美術館、高松市美術館、静岡市美術館)
おもな受賞歴
- 1996
- 第46回芸術選奨文部大臣新人賞受賞
- 2013
- 第54回毎日芸術賞受賞
抽象画を超えて
Beyond Abstract Painting
「女性画家で初めて毎日芸術賞を受賞」
辰野登恵子は1950年、長野県岡谷市に生まれる。小学生の頃から兄弟とともに絵画教室に通い、早くから美術大学進学を目指して勉学に励む。現役で東京藝術大学油画専攻に入学したが、在学中は学生運動が盛んで、学校が機能しないような状況下にあったという。また当時日本に入ったばかりの抽象表現主義※1やポップアート※2に影響を受け、友人と独学で版画制作(おもにシルクスクリーン)に取り組み、高い評価を得た。その後は油彩画などに立ち戻り、最後まで平面作品を探求するという制作姿勢を貫いた。2014年、惜しまれつつ64歳で亡くなるが、約30館という全国の美術館に作品がコレクションされ、没後数年を経た現在でも各地で展覧会が開かれ続けている。
そんな辰野自身が「好きだ」「影響を受けた」と述べる作家について多くの発言が残されている。ポール・セザンヌ、クリスフォード・スティル、マーク・ロスコ、アーシル・ゴーキー…。
「スティルは抽象表現主義の時代では派手な作家ではありませんが、その空間性において隙の無い独特な、神経を張り詰めるような描き方は抜群です。色に関してもマーク・ロスコのような官能的な使い方はしないが、かたちと色彩の対比が見事で、まるで頼り甲斐のある先生のようだと思ったものです」※3
したものからはじまり、アルファベットのS字が現れたり、花柄模様だったり、円や四角、菱形や引き出しのような形が現れる。定規で引いたような線ではなく、どこか歪んでいたり、バランスが取れていない形たち。それらの形が画面のなかで泳ぐように配置され、時には連続され、描かれている。何色もの色を重ね合わせている痕跡がみられるが、濁らない。200号、300号を超える大画面の作品は包み込まれるようであり、それは新緑の季節にしかみることができない木々のように爽やかで、不思議と観ていて落ち着く。
また、辰野は作品についてたくさんの言葉を残しているが、語りかけるようなわかりやすい文章が多いのが特徴である。描く手法やどのようなことを意識しながら描いているのかについても具体的に言及している。初期の油彩画については次のようだ。
「色の持つイリュージョンだけを頼りに、とにかく筆を重ねました。溶き油で溶いたおつゆ状の絵具を何度も重ねて、ナイフでごっそり削って、はがしながらテクスチュアを出して、そうやって1年くらいかけて描いた作品です。実在感を持った絵画、ただそこにあるだけで他になんの意味も持たない、しかも特異性を持った、そんな絵画空間を作り出したかった」※4抽象的な作品が多い辰野にとって、そこから鑑賞のヒントを得ることができるのではないだろうか。
「抽象表現主義」「ポップアート」「ミニマルアート」※5などといった現代美術の潮流に影響を受けながらも、時には苦しめられることもあった。インスタレーション(空間芸術)がもてはやされ、伝統的な絵画表現である「平面に筆で描く」という行為が否定された時代背景のなか、紙と筆と絵具、それだけで表現する潔さと、抽象、具象を超えた表現への模索、挑戦を生きている限り続けた生涯。そのこだわりとは、安易な傾倒に対する批判、我こそが新たな表現を追求していくという自負からくるものだったのではないだろうか。「今の私の絵は、抽象画とは言えないかもしれません。具象とも抽象とも言えない絵画。これからの絵画の可能性は、もうそういうところにしか残っていないのではないかと思います。」※4
辰野登恵子の作品は、画面に丸や菱形を描いているということをみつけることができるため、完全な抽象表現とは言い切れない作品が多いかもしれない。ただそのことが自分の表現を追求しながら観る人を置いていかずに、突き放さない魅力を放っている。はじめて辰野登恵子の作品の前に立つという方は、抽象表現主義がどうだとか、そんなことを考えずに、わからなくてもただぼんやりとみるだけでもいいと思う。こんな画家が長野にいて、絵を描いていたという事実。その表現にふれただけで十分である。
宮下 真美(軽井沢ニューアートミュージアム)
※1 美術評論家ロバート・コーツが命名したとされ、1945年以降のニューヨークを中心に展開したおおむね大画面の「絵画的」抽象画の総称。アクション・ペインティング、カラーフィールド・ペインティングもこの括りに入る
※2 抽象表現主義に反発するかたちで、イギリスからはじまりアメリカに波及した。既にあるオブジェクトやイメージを利用し、大衆文化や大量消費社会を反映した。アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインなどが代表的な作家
※3 「インタビュー 辰野登恵子 絵画と版画の往還」(『版画芸術』102号、1998年12月、p.75)
※4 「与えられた形象-辰野登恵子 柴田敏雄」(国立新美術館、2012年)
※5 1960年代に登場し、形態や色彩を最小限(ミニマル)に切り詰め、幾何学的な構造や同一単位の反復といった、還元主義的傾向を示すもの。その傾向から彫刻作品が多い
“TATSUNO Toeko is an artist whose solo exhibition was held at the national art museum, at the age of forty five – the youngest in history.” (1)
“TATSUNO Toeko was awarded the Grand Prize at the Mainichi Contemporary Art Exhibition, for the first time among Japanese women artists.” (2)
TATSUNO Toeko (1949 – 2014) was influenced by abstract expressionism and pop art. After tackling printmaking together with her friends, she returned to oil painting which was her major field, and pursued her research of two-dimensional works throughout her life. In her paintings we can see traces of layered paints of different colors without any muddiness. When we look at her big paintings exceeding 200 or 300 in French canvas standard sizes, we feel as if we are somehow completely wrapped up in them. Most of her paintings cannot be considered purely abstract. That is why her works don’t leave viewers behind, though the artist herself pursued her own path, and they emit their charm without pushing viewers away.
Miyashita, Mami / Karuizawa New Art Museum
(1)Solo exhibition “Tatsuno Toeko 1986-1995”, National Museum of Modern Art, Tokyo, 1995
(2)The 54th Mainichi Contemporary Art Exhibition, 2013
[上田会場] 終了しました
2021.2.13sat - 3.14sun
上田市立美術館
9:00-17:00休館日 = 火曜日(祝日の場合は翌日)
入館料 = 当日券:一般500(400)円、高校生以下無料
※ ( ) 内は20名以上の団体、障害者手帳携帯者とその介助者1名は無料
長野県上田市天神3丁目15-15 サントミューゼ内電話 0268-27-2300