彫刻
丸山 富之
MARUYAMA Tomiyuki
《あかつき》 2002-2019年 撮影:山本糾
略歴
- 1956
長野県安曇野市三郷生まれ
- 1975
松本県ケ丘高等学校卒業
- 1984
東京藝術大学彫刻科卒業
- 1986
東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
おもな作品発表歴
個展
- 1985
個展(東京藝術大学展示室/東京都)
- 1986
個展(ギャラリー葉/東京都)
- 1987・89・91・94・96
個展(ときわ画廊/東京都)
- 1989・97
個展(ギャラリーなつか/東京都)
- 1993
個展(なびす画廊/東京都)
- 1996・99・01・04・06−08・11・12・14・16・18
個展(ヒノギャラリー/東京都)
- 2000
個展(ギャラリー深志/松本市)
- 2003
個展(夷隅田園の美術館/千葉県)
- 2006
個展(Gallery Shilla/大邱・韓国)
- 2019
個展(朝日美術館/朝日村)
おもな作品発表歴
グループ展
- 1993
「<かたまり彫刻>とは何か」(エスパスOHARA/東京都)
- 1994
「<彫刻>展」(代々木アートギャラリー/東京都)
- 1996
「匍匐は跳躍」(なびす画廊/東京都)
- 1999
「花蓮国際石材彫刻展」(花蓮縣立文化中心/台湾)
- 2000
「春のおくりもの」(なびす画廊/東京都)
- 2002
「東日本―彫刻」(東京ステーションギャラリー/東京都)、「かたちの所以」(佐倉市美術館/千葉県)
- 2003
「第1回中国国際画廊博覧会」(北京・中国)、「第5回雨引の里と彫刻」(茨城県)、「表象都市metamorphosis」(広島県)、「-芸術実験展示プロジェクト2003-」(旧日本銀行広島支店/広島県)
- 2005
「Saraylar Symposium」(トルコ)、「石の思考」(東京藝術大学美術館陳列館/東京都)
- 2006
「SINGULAR STONES 2006」(ギャラリーせいほう/東京都)
- 2009
「第8回まつしろ現代美術フェスティバル」(長野市)
- 2010
「第9回まつしろ現代美術フェスティバル」(長野市)
- 2013
「KCA house オープンスタジオ2013」(埼玉県)
- 2020
「<石の彫刻>展」(いりや画廊/東京都)
- 2021
「第2回<石の彫刻>展」(ギャラリーせいほう/東京都)
石と対峙し生まれるもの
丸山富之は石の彫刻家である。2019年の個展「丸山富之 石の彫刻 水平の空 垂直の夢」(朝日美術館)は、柔らかな自然光と大きな作品群が一体となり風格ある空間を作り出していた。彫刻と空間の関係を作り上げるために、光、影、天地、左右との関係を考えながら、相互に響き合う地点を探る。すると作品と場が連続性をもち、生き生きとした彫刻空間になるのである。
丸山のアトリエに伺うと、作品の形になる前の大きな石がいくつも置かれていた。使用される石の多くは長崎県の諫早石である。砂岩できめが細かく、グレーやベージュの色合いが温かみを感じさせるが、加工の難しい素材である。そしてさらに強固な素材が黒御影石。いずれも制作道具はノミとハンマー、砥石、グラインダーなど比較的シンプルであるから、想像を超える制作時間が費やされていることになる。「ここで削るんです」と案内された屋外の場所はその時間を包み込む主のようにも見えた。制作の途中、丸山は自然光との兼ね合いを見るため、早朝の日の出のころに作品を見にくるという。日中でも日没でもない、朝にしかない光の反射を見ることで石の面の表情を確かめているのである。
丸山の彫刻を理解する上で重要なテーマのひとつが「水平と垂直」である。水平に堆積した砂岩は、「地平の広がり」を象徴する。地面と空との関係で見ると「地面と空のあいだ」にあるものであり、大きくは「地球の表面」※1 である。これはやがて宇宙へとつながっていく。《あかつき》(p.61)は、繊細なまでに薄く彫り出された水平面から垂直面がスッと立ち上がっている。垂直面は不思議と水平面をあちらとこちら側に分断する。それは視線を遮る人為的な境界であり、たとえば国の東西、人種の壁といった緊張感ある境をも連想させ、見るものに強いイメージを与える。
石の塊にひたすらノミを当てていくと石の体積は減ってゆくのだが、「自分の抱える空間を増やしていくので、石を彫れば彫るほど作品は大きくなる」※2 という。丸山は彫る行為により、空間を自身の身体に内包させているのだろう。
作品の造形に着目すると、水平面は下方にやや膨らみがあり、地面から浮遊しているようにも見えるが、わずかな設置面で自立している。この膨らみは他の作品にも多く見られるのだが、これによりゆるやかな光の変化が生まれる。と同時に、彫刻の大胆な形の中に緻密さを持たせている。ただ実はこのゆるやかな曲面の加工こそ、気の遠くなるような作業なのだ。
2023年の個展「丸山富之 水平の空-おもかげ」(いりや画廊)では、《眠り》《目覚め》《始原》《素行》というタイトルの作品が発表された。言葉から丸山の彫刻を類推していくことは適当ではないかもしれないが、生命感をも含んだこの作品群からは、言葉の意味が作品に影響したであろうことが考えられる。ある時、胎児の世界における「根源の形象」※3という言葉に触発されたという。胎児の顔貌にただよう、どこかしら動物らしいおもかげ、未分化であるものにも、何かその種と区別するイメージがある。そうした「原形」に対する意識が込められている。
何千万年という年月を経てできた石層に思いを馳せ、石に寄り添い、対峙しながら、究極まで形を突き詰める。丸山はノミをあてながら石との境界を探り、そのはざまに立つことによって、言葉では言い当てることのできない、人々の営みや流れてきた時間、今生きている空間、そして生まれ出づる生命に共通する何かを体現しているのではないだろうか。
※1 『MARUYAMA TOMIYUKI 2018-2021』(図録、朝日美術館・ヒノギャラリー、2021年)
※2 丸山富之『向こう側とこちら側』(小冊子、2011年)
※3 三木成夫『胎児の世界』(中公新書、1983年)
安曇野市教育委員会
塩原 理絵子
MARUYAMA Tomiyuki continues to produce sculptures using stones as material. Especially, he has used Isahaya-stones quarried in Nagasaki Prefecture. He chisels rectangular stone blocks earnestly to finish his works. While chiseling repeatedly, the volume of the stone decreases. However, the artist expresses, “the more I chisel the stone, the bigger my work becomes because the space I possess in my work becomes larger and larger.” Thus, the horizontal plane that is rendered this way, spreads to the ends of the universe. When a vertical plane stands up there, a border suddenly appears. His works invite viewers to imagine the earth as an expanse with artificial borders on the ground reminding them of time and space.
Azumino-shi Board of Education
Shiohara, Rieko
会場情報
終了しました
2023
09.16SAT
11.12SUN
- ・中央自動車道「須玉IC」、上信越自動車道「佐久IC」、中部横断自動車道「八千穂高原IC」より国道141号線を経て、「松原湖 入 口」の信号を松原湖方面へ約4㎞。
・中央自動車道「須玉I.C」から美術館まで約47km
・上信越自動車道「八千穂高原I.C」から美術館まで約14km