インスタレーション
横山 昌伸
YOKOYAMA Masanobu
《still life series 150627》 2015年
略歴
- 1982
長野県松本市生まれ
- 2006
早稲田大学社会科学部卒業
- 2011
東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業
- 2014
東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了
- 2020
東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了(美術博士)
おもな作品発表歴
- 2011
東京藝術大学卒業・修了展示(BankArt Studio NYK/神奈川県)
ISE Cultural Foundation 美術学生展 in NY(NY, USA)
同受賞者展 (NYCoo Gallery 2011/NY, USA)
souce sight no.4 (ソースファクトリー/東京都)
- 2014
東京藝術大学大学院美術研究科修了展(東京藝術大学附属美術館/東京都)
- 2015
étude展(東京藝術大学/東京都)
- 2019
東京藝術大学大学院美術研究科博士審査展(東京藝術大学附属美術館/東京都)
- 2022
来歴の煙(アンフォルメル中川村美術館/中川村)
おもな受賞歴
- 2011
NY市民賞(ISE Cultural Foundation)
「知覚」の再構成 横山昌伸の実践
伊那谷を見下ろすと、天竜川にほど近い農地の一角から煙が立ち昇っている。2022年11月27日、アンフォルメル中川村美術館で開催中の横山昌伸の個展「来歴の煙」拝見後、煙を目指して車を走らせる。三州街道から天竜川に向けて少し下ると牧歌的な風景が広がる小さな集落がある。集落の先は行き止まりになっていて、そのいちばん奥の畑の近くで、横山に初めて会う。伐採した草木が燃やされ、展覧会で見かけた同形の角材から太古の狼煙のように濛々と煙が立ち昇っている。美術館との位置関係、土地の環境、土地所有者との交感、時間的制約、決して容易ではないこの場所の選定は横山の作品制作に大きく関わっているのではないかと感じた。横山の解説によると本展は3つのストーリーにひらかれていて、本作は「レディメイドの順応と転身の物語」だという。「レディメイド」とは「既製品」を意味し、マルセル・デュシャンが1915年に既製品を用いた作品の表明の形式を定義するために使った言葉であるが、本作とはその意味において差異があるように思えた。美術館の庭には複数の角材が埋められていた跡が残る穴があり、美術館外部のデッキには掘り出されたであろう、部分的に土が残る角材が2本置かれていた。それぞれ〝埋められたレディメイド〟、〝掘り起こされたレディメイド〟であり、目の前ではおそらく〝煙になったレディメイド〟が実践されている。展覧会のフライヤーの解説にある「既存の眼差しや言説を形のないレディメイド=フォーマットとしてとらえ、それを乗り越える作品制作を目論む」横山の実践は、デュシャンの「レディメイド」と関係を持つのか、展覧会名「来歴の煙」とは何を意味しているのかという疑問を残し、立ち昇る煙を後にした。
横山は、1982年松本市に生まれ、早稲田大学社会科学部を卒業後、東京藝術大学で美術博士号を取得している。博士論文は「still life -静物画における視覚実験の系譜と実践―」であり、概要を論文から引用すると「本論は、静物画における視覚実験という側面について、「still life」と「nature morte(死んだ自然)」という2つの観点から論じ、その後現代科学で判明している生理学的・脳科学的な視覚システムと、認知科学や心理学、また過去の賢人たちの緒言から心的な視覚とを論じ、その過程で見ることを捉え直し、筆者のこれまでの制作を紹介した上で、対象をひらく静物画、視覚実験の系譜における現代的な静物画の制作を行うことを目的としている。」とある。博士審査展作品《still life series》は本展に出品される。また、論文には前述の来歴、フォーマットとレディメイドへの言及があり、横山の作品理解のために本稿はこの論文を参照する。
さて、われわれはものをどのように「見て」いるのだろうか。誰もが同じようにものを「見て」いるのだろうか。経験や環境によって見方は変わってくることは少なからず自覚しいているのではないか。冒頭の疑問に戻ろう。横山は「見ることは『来歴』を対象に『投影』することである。来歴とは個人が経験する過去の全てであり、その経験には文化的、社会的、環境的、身体的なバイアスが存在する。来歴を対象に投影するとき、来歴が『今、ここ』と交差するが、それゆえにそこではやりとりが起こりうる。見る-見た、という時間の中に存在する、認識がフォルムを獲得するやりとりのなかに、来歴がバイアスを幾重にも重ね硬直した既製品を提供してきたとしても、それから形を奪うチャンスがある。」とする。「来歴の煙」には、煙という空虚でバイアスを問い、展示全体を我々にひらく意図があるのではないか。さらに、デュシャンのレディメイドを「ふるまいとして『作る』ことをやめ、すでに出来上がった物を持ってきて『名指す』行為によって作品を成立させた」と捉え、「これを概念的に引き継いだ上で乗り越える投機を行う」ことが作品制作のモチーフだという。そしてそれは、来るべき制作に引き継がれる。
本展では滞在制作が予定されている。どのような方法で実践されるのかは現段階では不明だが、《still life series》制作にあたり、大学を休学して写真スタジオでフォトグラファーを目指すスタッフとライティングや機材の扱い方を学んだように、〝煙になったレディメイド〟実践のために、時間をかけて場所を選定し協力者との関係を築いていったように、われわれはその場所の人や環境との関りを作品制作につなげていく横山の実践に立ち会うことになる。
小海町高原美術館
中嶋 実
YOKOYAMA Masanobu not only does research on the theme of still life, but also produces his works on the same theme. Based on the historical fact that still life transformed from “copying nature,” to “executing visual experiments,” he attempts to verify how the way of seeing was institutionalized from various points of view, such as the physiological or brain-scientifical visual systems, mental vision, and so on. Moreover, he himself practices producing “still-life” works as examples of reconstructing “perception.” The “Still Life Series,” exhibited here, are works created from the same motif, based on photos shot partially under different lighting, points of view, and focuses, and then, compiled into the shape of a grid as a whole. His works, by disassembling our visual system, ask viewers what it means to “see.” This time, his stay for the sake of production as an artist in residence, in the institution of Koumi-machi, will assist him in proceeding to a new practice.
Koumi-machi Kougen Museum of Art
Nakajima, Minoru
会場情報
終了しました
2023
09.16SAT
11.12SUN
- ・中央自動車道「須玉IC」、上信越自動車道「佐久IC」、中部横断自動車道「八千穂高原IC」より国道141号線を経て、「松原湖 入 口」の信号を松原湖方面へ約4㎞。
・中央自動車道「須玉I.C」から美術館まで約47km
・上信越自動車道「八千穂高原I.C」から美術館まで約14km