小海町高原美術館
Koumi-machi Kougen Museum of Art
終了しました
2023
09.16SAT
11.12SUN
小海町高原美術館
- 長野県南佐久郡小海町大字豊里5918-2
- 0267-93-2133
- 火曜休、祝日の翌日休
- 9:00-17:00(入場は16:30まで)
- ・中央自動車道「須玉IC」、上信越自動車道「佐久IC」、中部横断自動車道「八千穂高原IC」より国道141号線を経て、「松原湖 入 口」の信号を松原湖方面へ約4㎞。
・中央自動車道「須玉I.C」から美術館まで約47km
・上信越自動車道「八千穂高原I.C」から美術館まで約14km
エッセイ
響き合う個性
佐久市立近代美術館
由井 はる奈
小海町高原美術館は東信地域、八ヶ岳を望む松原湖高原に建つ美術館です。1997年に開館し、2022年に25周年を迎えました。島岡達三(1919−2007)の陶芸作品をはじめとして、小海町にゆかりのある栗林今朝男(1924−2016)や谷本清光(1936−)の絵画作品などを所蔵し、収蔵作品と郷土の芸術の調査研究、展示を行っています。2005年からは現代美術の企画展を開催し、2007年からアーティストの滞在制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンス」を行っています。また、国内外の多様な芸術表現も紹介しており、なかでも2017年に開催された、小海町出身のアニメーション監督・新海誠(1973−)による個展『新海誠展-「ほしのこえ」から「君の名は。」まで-』は大きな反響を呼びました。教育普及や生涯学習にも力を注ぎ、子どもから高齢者まで幅広い年齢層から地域文化の活動拠点として親しまれています。
小海町高原美術館の特徴のひとつにその建築があげられます。高原の傾斜地をそのまま生かして建てられたコンクリート打ち放しの建物は、建築家・安藤忠雄(1941−)の設計によるものです。エントランスから伸びるスロープを下ると大きさの異なる3つの展示室があり、各室には床から天井まで届く大きなガラス窓が設けられ自然光が降り注いでいます。窓の外には白樺などの緑が広がり、堅牢なコンクリート建築と周辺の豊かな自然が見事な調和を奏でています。四季、天候、時刻によってさまざまな表情を映し出すこの展示室は、そこに展示される作品と呼応しながら、観賞者にここでしか出会えない観賞体験をもたらします。今回の「シンビズム5」ではこの小海町高原美術館を会場に、疋田義明(1992−)、丸山富之(1956−)、横山昌伸(1982−)の3人の作家を紹介します。
疋田義明は1992年、長野市に生まれました。2015年に武蔵野美術大学油絵学科を卒業し、現在は長野県内で制作を続けています。疋田は日々の景色を繊細な感性ですくい取り、叙情豊かな絵画へと昇華します。モチーフは、人の顔や、疋田が見た風景、彼が思い描いた情景などさまざまですが、どれも素朴にどこか懐かしさを感じさせます。疋田の描く絵画はまるで、記憶のアルバムを開いた時に脳裏に浮かぶ心象風景のようです。それは、胸の奥に眠る幼い頃のかすかな記憶、もしかしたらもっとずっと深く古い記憶に根ざす温かい情感を呼び起こすのです。
横山昌伸は1982年、松本市に生まれました。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科を経て2020年、同大学大学院美術研究科博士後期課程を修了(美術博士)しました。横山は視覚のメカニズムに着目し、「見ること」の新たな可能性を、静物画やインスタレーション、アースワークなどを通して提示しています。横山によると、「見る」という行為には習慣や環境などの影響から常に認知バイアスが生じており、横山はさまざまな実験的表現によって、そのバイアスの向こうの「まだ見ない対象の相への接続可能性」※2 を観賞者に感受させるのです。もし、見ることを生きることと同義とするなら、横山の実験は、私たちが知らず知らずのうちに陥る偏った思考や先入観を越えて、新たな生き方を見出す可能性を示唆しているのかもしれません。
今回の展示は通常とは逆の順路をめぐり、展示空間がしだいに開けて行くような体感が得られるように構成されています。開放感あふれる空間の中で、絵画、彫刻、先端芸術表現といった三者三様の作品は、観賞者に長野県における現代美術の豊かな多様性を感じさせてくれるでしょう。また、3人の作品と小海町高原美術館の安藤忠雄による建築がどのように響き合うのかも楽しみです。
※1 西田幾多郎『善の研究』(岩波文庫、岩波書店、1950年、p.72)
※2 横山昌伸「Still life : 静物画における視覚実験の系譜と実践」(東京藝術大学大学院美術研究科博士論文、2020年
ESSAY
Essay from the Venue of the Koumi-machi Kougen Museum of Art
Resonating Individualities
Saku Municipal Museum of Modern Art
Yui, Haruna
HIKITA grasps the daily landscape with his delicate sensibility and sublimates it in his lyrical paintings. MARUYAMA has pursued his “sculpture of space,” in which, he produces his works utilizing the space created by chiseling stone blocks. YOKOYAMA focuses on visual mechanisms and exhibits new possibilities of “seeing” through his still-life and earth works.