絵画 サウンド他
高見澤 文雄
TAKAMIZAWA Fumio
《照る川の流れは絶えずして水底に光の網を流す》 2022年 撮影:山本糾
略歴
- 1948
長野県生まれ
- 1971
多摩美術大学絵画科油画専攻卒業
おもな作品発表歴
- 1969
グループ展(ルナミ画廊/東京都)
- 1970
「京都アンデパンダン展」(京都市美術館/京都府)
- 1971
個展(田村画廊/東京都)
グループ展(村松画廊/東京都)
「Bゼミ展」(横浜市民ギャラリー/神奈川県、galerie 16/京都府)
- 1972
個展(ときわ画廊/東京都)以後(77、78、80、82)
- 1974
「第11回東京ビエンナーレ」(東京都美術館/東京都)
- 1976
「京都ビエンナーレ」(京都市美術館/京都府)
- 1977
「Tokyo Geijutsu-4」(田村画廊/東京都)
- 1978
「Tokyo Geijutsu-4」(村松画廊/東京都)
- 1985
個展(galerie 16/京都府)
個展(ギャラリーなつか/東京都)
- 1987
「発熱する表面」(福岡市美術館/福岡県)
- 1987・89
個展(なびす画廊/東京都)
- 1990
個展(ヒノギャラリー/東京都)以後(92、93、95-97、隔年で22年まで)
- 1992
「形象のはざまに」(東京国立近代美術館/東京都、国立国際美術館/大阪府)
個展(スカイドア アートプレイス青山/東京都)
- 1993
「再制作と引用」(板橋区立美術館/東京都)
- 1995
「絵画、唯一なるもの」(東京国立近代美術館/東京都、京都国立近代美術館/京都府)
- 2008
「所沢ビエンナーレ・プレ美術展 引込線」(西武鉄道旧所沢車両工場/埼玉県)
- 2011
「所沢ビエンナーレ・美術展 引込線」(所沢市生涯学習推進センター/埼玉県)
- 2018
個展「日本美術サウンドアーカイブ―高見澤文雄《柵を越えた羊の数》1974年」(Art & Space ここから/東京都)
- 2022
個展(ヒノギャラリー/東京都)
川の流れのように
「記憶」「忘却」を主なテーマに制作している高見澤文雄は、今回のシンビズム展が、故郷の長野県内での美術館では初めての展示となる。
長野県千曲市に生まれ、上田高校の美術班に入る。多摩美術大学で油絵を学び、大学在学中から画廊などで積極的に作品を発表してきた。主に都内で個展やグループ展など、現在に至るまでさまざまな表現方法で制作を続けている。
50年以上におよぶ制作活動をここまで続けるその原動力は、いったいどこから来ているのだろうか。
初期の代表作《柵を越えた羊の数》(第11回日本国際美術展、1974年)は、寺山修司が『現代詩手帖』で「新しい『複製芸術』の可能性に挑んだものだった」と述べたことが、この作品を有名にしたともいえる。※1
横一列に並べられた15台のカセットテープレコーダーから、羊の数を数えながら眠ろうとする高見澤の声が流れるというインスタレーション作品である。
1970年代は平面作品が否定されるような時代であった。この頃はインスタレーション作品の発表が続き、ビデオや写真などを駆使して制作を行っていた。
1980年代に入ると平面作品や立体作品へと移り、指で描き、うねりのある重厚なタッチが画面を埋め尽くす作品を制作してきた。時代は、この頃から少しずつ「描く」という表現形態が戻り、再考するようになっていく。
「平面」「立体」と単純に区別できないような作品もある。「記憶の衝立」シリーズは、その名のとおり床に自立するカーブした大型作品である。下塗りを施した木のボードに、赤や青といった原色を何度も何度も指で塗り重ねた、力強く重厚な画面。高さは、ちょうど高見澤の身長に合わせているそうだ。壁にかからないことで、作品が鑑賞者に立ちはだかるように迫り、訴えるような気迫で満ちている。
1990年代から現在においては、徐々に指を使った作品から筆で塗り重ねる作品へと移行していく。
時代ごとにさまざまな方法、手法で自らのテーマを表現し続けている高見澤については、これまで谷新や本江邦夫など、多くの著名な美術評論家が彼について高く評価してきている。
展覧会の打合せでアトリエにお邪魔すると、無数の色彩豊かな網目が絡み合うように画面を埋め尽くす最新作が何枚も立てかけられ、「記憶の衝立」シリーズが一角に置かれていた。
天井を見ると、手作りの装置でプロジェクターが吊り下げられ、そこにデジタルカメラがぶら下がっている。どういうことか伺ってみたら20年ほど前から川で水面の網模様が川底に映り込む様子を撮影し、それをプロジェクターに投影してトレースし、そこから作品に仕上げていくそうだ。アトリエの最新作はそのようにして制作されたという。
《網の波、波の網》《水の跡/Trace of water》《水の記憶》など、作品に水に関する文字を選ぶことが多いように感じるのは、何か特別な思いがあるからなのだろうか。
「三つの川」と題して紹介するのは、高校の先輩で敬愛する詩人・渋沢孝輔氏の詩集に出てきた川であり、因縁を感じるという高見沢川を見に行った時の話。もうひとつは以前アトリエにしていた場所からほど近くにあり、川の近くで昼食を取ったり、何気なく眺めることがあった川。最後に、思いつきで訪れたという最上川。
その末尾に「水底の光の網は、私のタブローの中で未だに、『行き方知れず』で、『川の流れに身をまかせ』たままです。あの川の流れとは別の、たゆたい、ゆらぎ、をと思うのですが、どうも川の流れに掉さしているのではないかと、我が細い筆先を見て思うのです」と締めくくっている。
この文章は、埼玉県所沢市の作家が集まり展示を企画した「所沢ビエンナーレ・引込線」展の図録に掲載されたものだ。
「引込線」とは、所沢にある元鉄道車両整備工場の跡地を舞台に、作家だけでなく評論家も出品料を払い展示に参加するという画期的な仕組みで、2008年から7回開催された。高見澤は出展だけでなく企画側にも回ったが、総勢160名が関わった壮大なイベントであった。
このエピソードには、多くは語らず、派手に主張しない高見澤の人柄、そして作品を読み解くヒントがあるように思った。
50年にわたる制作活動で、作風は変化するが、根底にある信念はまったく変わらない。
制作を絶え間なく行うこと、美術と関わり続けること。
その難しさ、苦労、悔しさはこの世界ではつきものである。それを周囲に感じさせず、「記憶」という曖昧で見えないものを追い求める姿は、まさしく「川の流れのように」淡々と、そして静かにこれからも続いていくのだろう。
※1 寺山修司「偶然性のエクリチュール」(『現代詩手帖』、1974年12月)
※2 高見澤文雄「三つの川」(『所沢ビエンナーレ・プレ美術展引込線』、2008年)
軽井沢ニューアートミュージアム
宮下 真美
For TAKAMIZAWA, who produces mainly in the theme of “memory” and “oblivion,” this “Shinbism” exhibition will be his first exhibit at home, in the museum of Nagano Prefecture. Until now, he has done his production activities, including solo-exhibitions, as well as participating in group exhibitions, mainly in Tokyo, for more than fifty years. In his early days, he presented his installation works, such as his early representative work entitled “The Number of Sheep that Crossed over the Fence,” and the series of works entitled “Screen of Memory,” painted with fingers, which convey profound feelings. Presently, he exhibited two-dimensional works in the motif of river surfaces, which were produced by laying paint with brushes. He continues to pursue and express his theme in different ways and techniques at every period of his creations.
KARUIZAWA NEW ART MUSEUM
Miyashita, Mami
会場情報
終了しました
2023
07.01SAT
09.03SUN
- ・長野新幹線長野駅から、長野電鉄に乗換え湯田中駅下車、志賀高原方面行バスにてスノーモンキーパーク停留所下車、徒歩1分。またはタクシーにて8分。
・上信越自動車道、信州中野I.C.から国道292号線(志賀中野線)経由15分。駐車場60台。