Artist
参加アーティスト
池田 潤
Jun Ikeda
>《Trace-Focus-09.o.Ar.F.003》2009年
Works & Comment
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たとえば望遠鏡をのぞき、宇宙の星を見上げるとき、あるいは顕微鏡をのぞき、微生物へと迫っていくとき、私たちの眼前にはまずぼんやりとした光景が現れ、そこから徐々に対象へとピントをあわせていく。
この過程で現れる映像は、私たちと対象物との間に垂らされた1枚のスクリーンとして、鑑賞者の視界を遮り、イメージは浮遊した状態を保ちながら、マクロな存在も、ミクロな存在も等価なものとして、そこに表出している。
この映像が現れる過程のなかに、孔版(スクリーンプリント)との共通性を見出した。
孔版によって紙を隔てた対象へ幾度となく層を重ね、その痕跡を紙というスクリーンに定着させていく。
そこにはオブジェクトも記号性もない、ただ純粋な映像が存在するのみである。
この過程で現れる映像は、私たちと対象物との間に垂らされた1枚のスクリーンとして、鑑賞者の視界を遮り、イメージは浮遊した状態を保ちながら、マクロな存在も、ミクロな存在も等価なものとして、そこに表出している。
この映像が現れる過程のなかに、孔版(スクリーンプリント)との共通性を見出した。
孔版によって紙を隔てた対象へ幾度となく層を重ね、その痕跡を紙というスクリーンに定着させていく。
そこにはオブジェクトも記号性もない、ただ純粋な映像が存在するのみである。
When we look through a telescope to view the stars, or when we look though a microscope to observe microorganisms, we perceive only vague images at first. Then we focus in on them to achieve clarity.
In this way, the images we see are like screens that separate viewers from objects which cause these out of focus images to seem to float for a while. These images make no distinction between the macro and micro in nature, so the value of the objects we view remains the same.
I found similarity in this process of making images become clearer while creating silkscreen prints.
I use stencils to position multiple layers of ink, leaving the residue on screens made of paper, leaving neither objects nor encoded symbols, to render pure images.
In this way, the images we see are like screens that separate viewers from objects which cause these out of focus images to seem to float for a while. These images make no distinction between the macro and micro in nature, so the value of the objects we view remains the same.
I found similarity in this process of making images become clearer while creating silkscreen prints.
I use stencils to position multiple layers of ink, leaving the residue on screens made of paper, leaving neither objects nor encoded symbols, to render pure images.
>《Trace-Focus-10.To.Iz.F.006》2010年
>《Trace-Thread-07.Tto.Ar.F.S001-1》2007年
>《Trace-Particle-03.S15.Wa.S.021》2003年
Profile
池田 潤 Jun Ikeda
版画 スクリーンプリント
- 1984
- 長野県生まれ
- 2002
- エクセラン高等学校美術科卒業
- 2006
- 多摩美術大学美術学部絵画学科版画専攻卒業
- 2008
- 同大学院美術研究科博士前期課程版画専攻修了
- 2013
- 同大学院美術研究科博士後期課程版画専攻単位取得後退学
主な受賞歴
- 2005
- 第30回全国大学版画展美術館収蔵賞
- 2007
- AOMORI PRINT TRIENNALE 2007審査員奨励賞
- 2009
- 第86回春陽展版画部奨励賞
- 2010
- 日本版画協会 第78回版画展立山賞
- 2011
- 日本版画協会 第79回版画展準会員優秀賞
第8回高知国際版画トリエンナーレ展優秀賞
第5回山本鼎版画大賞展キリンビール賞
第3回NBCメッシュテックシルクスクリーン国際版画ビエンナーレ展優秀賞
主な作品発表歴
- 2008
- 個展(アートミュージアム・まど/中野市)
- 2010
- 「日本当代版画邀請展 現代日本版画展-20世紀から21世紀まで-」(浙江美術館/中国)
「Print composition 2010 多摩美術大学版画教室40周年展」(多摩美術大学美術館/東京都)
- 2011
- 「ASPECTS 2011-Japanese Contemporary Prints」(Gallery of The Faculty of Art and Design Rajabhat Suan Sunandha University/タイ)
- 2012
- 「公募団体ベストセレクション2012」(東京都美術館/東京都)
- 2013
- 「池田潤 版画展」(中野市一本木公園展示館/中野市)
学芸員の解説
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「版」の探求者・池田潤 ー その思考と表現
版画家・池田潤はまさにシンビズムに呼応した作家だ。なぜならその作品は長野県人の気質といわれる「誠実さ」がないと完成し得ないものだからだ。池田の制作思考や方法には完璧に刷り上げられた作品以上に徹底した理論の構築と行為の定義付けがある。大学院時代には論文「東京国際版画ビエンナーレ展からみる版の存在」(『大学版画学会』No.40、2011.4)を執筆。ここで池田は制作者としてだけでなく研究者として版画と対峙しその概念を探求した。自らが表現技法として選んだ版画とは一体何なのか、そしてデザインやコンセプチャルアートとの差異など、池田にとって現代版画史を遡ることは制作者としての位置を確認する作業であった。温故知新の精神、ここにもまた彼の信州人らしい真面目さが表出しているように思う。
さて、池田の作品展開における一貫したテーマは「痕跡」である。作品群は《Trace》シリーズと名付けられ、さらに傾向のちがいから《Shelter》《Particle》《Thread》《Focus》と4つの副題に分類される。「痕跡」とは過去に何かがあったことを示す跡形であり、時間が経過することでしか生み出せない記憶である。
池田はスクリーンプリント(=版)を用いて、この「時間」という概念の表現を試みた。スクリーンプリントは枠に張った紗の織目からインクを押し出すことにより絵柄を刷りとる版画技法で、刷るたびにインクの厚みが紙に積層し美しいマチエールやテクスチャーを生み出すことができる。シリーズはこのスクリーンプリントの特徴であるレイヤーをロジックとして展開されていく。しかし隠された意図を知らずとも鑑賞者は作品に宿る透明感ある色彩の重層と質感ある画肌の美しさに魅了される。図らずも作家の無意識の領域だ。どんなに版という客観性を持ち込んでも版を通過して表現されるのは、実は作家自身であるようだ。そこには今日を生き、版画とは何かを常に問い続ける版画家・池田潤が転写されているのであった。
さて、池田の作品展開における一貫したテーマは「痕跡」である。作品群は《Trace》シリーズと名付けられ、さらに傾向のちがいから《Shelter》《Particle》《Thread》《Focus》と4つの副題に分類される。「痕跡」とは過去に何かがあったことを示す跡形であり、時間が経過することでしか生み出せない記憶である。
池田はスクリーンプリント(=版)を用いて、この「時間」という概念の表現を試みた。スクリーンプリントは枠に張った紗の織目からインクを押し出すことにより絵柄を刷りとる版画技法で、刷るたびにインクの厚みが紙に積層し美しいマチエールやテクスチャーを生み出すことができる。シリーズはこのスクリーンプリントの特徴であるレイヤーをロジックとして展開されていく。しかし隠された意図を知らずとも鑑賞者は作品に宿る透明感ある色彩の重層と質感ある画肌の美しさに魅了される。図らずも作家の無意識の領域だ。どんなに版という客観性を持ち込んでも版を通過して表現されるのは、実は作家自身であるようだ。そこには今日を生き、版画とは何かを常に問い続ける版画家・池田潤が転写されているのであった。
前澤 朋美(長野市信州新町美術館)
Ikeda Jun, An Inquirer of “Printing” - His Thoughts and Expressions
Prints of Ikeda Jun are based on thoroughly constructed theory and defined action. While a graduate student, he researched the concept of printing and wrote a thesis entitled “The Presence of Printing seen from the International Biennial Exhibition of Prints in Tokyo” (“The Committee of University of Art for Print Studies in Japan” No.40, April 2011). His technique is screen printing. He logically embodies the concept of “time” in layers of ink of different colors. A series of works entitled “Trace,” which is a consistent theme of his, are classified into four groups subtitled “Shelter,” “Particle,” “Thread” and “Focus,” according to the content of his works. Transparent layered colors of ink and the beauty of their texture characterize his works, which deeply affect viewers.
Maezawa Tomomi(Shinshu Shinmachi Museum)
開催会場
北信
信州新町美術館
- 住所
- 〒381-2404
長野県長野市信州新町上条88-3
- 電話番号
- 026-262-3500
- 開館時間
- 9:00~16:30
- 閉館日
- 月曜と祝日の翌日休
「シンビズム -信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち-」会期中は開館時間、閉館日が通常と異なっております