Artist
参加アーティスト
中村 恭子
Kyoko Nakamura
>《風景を漁る者-現実よりも懐かしい》2017年
Works & Comment
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たとえば《皿鉢絵》の制作で当初描こうと意図していたのは鯨で、古い映画『白鯨』の影響からだ。モービィ・ディックを直接的に描けない私はこの画題も忘れ、C.フーリエの食事法について考えをめぐらせるうちに皿鉢料理に至った。ひとつの大皿に、前菜・主菜の区別なく組み込まれる料理の姿は、私に、何か大いなるものの断片を感じた。それは異質なものが担う世界の普遍性への期待であった。宴たけなわになると、酒席の目的は忘れ去られ、もてなす・もてなされる関係や、人・食べもの・生きものの区別も消えていく。食事を構成するすべてが断片化した美味しいと口に運ぶひと噛みによって、依然として大いなる鯨をとらえることはできないが、皿鉢の饗宴に降り立つ「鯨」ならば射程に入る。かくして制作の意図と実現の間にはいつも大きな差異が生まれる。差異が埋まることはない。しかし共立することがある。これが芸術における創造の秘密だ。
While executing my work entitled “Sawachi-e (painting),” for example, what I intended to paint, firstly, was a whale because I was influenced by the old movie “Moby-Dick or the White Whale.” However, I gave up on the idea of the whale, as I couldn’t paint “Moby-Dick” directly. I even forgot about the whale as the theme of my painting, then started to think about the diet of C. Fourier. Finally, my theme settled on Sawachi Dishes. The view of Sawachi Dishes, which is sorted on a feast-sized plate without any distinction between the appetizer and the main dish, reminds me of a fragment of a piece of something massive. It represents a kind of expectation for the universality of the world which consists of various things. When a feast is in full swing, its purpose is lost into oblivion and the relationship between the host(s) a nd t he g uests b ecomes m eaningless a s d oes the distinction among human beings, food and other living organisms. Though it is difficult to evoke the entire view of a gigantic whale only by savoring one fragmental bite of the delicious food, I can still conjure up the image of a “whale,” lying on a dish for the feast. In this way, I always face such a conundrum between my initial intent and its realization. This problem is never solved but, sometimes, these two things can be made to coexist. This is the secret of creating art.
>《皿鉢絵》2015−16年
>《皿鉢絵》2015−16年
>《皿鉢絵》2015−16年
>《皿鉢絵》2015−16年
>《かものはす-急上昇》2014−15年
>《かものはす-急上昇》2014−15年
Profile
中村 恭子 Kyoko Nakamura
日本画
- 1981
- 長野県諏訪郡下諏訪町生まれ
- 2010
- 東京藝術大学大学院美術研究科日本画研究領域博士課程修了
- 2014
- 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所特任研究員
主な作品発表歴
- 2007
- 中村恭子展「植物的方法」(長野県高森町蘭植物園/高森町)
- 2008
- 中村恭子日本画作品展(サンシャインシティ世界のらん展/東京都)
中村恭子展「ランの解剖学」(長野県高森町蘭植物園/高森町)
- 2009
- 中村恭子日本画作品展「生命の解剖学-生きた自然を描く」(数奇和ギャラリー/東京都・滋賀県)
口頭発表+展示:中村恭子「ランを通して読むアーダ」(日本ナボコフ協会大会、東京外国語大学/東京都)
- 2010
- 中村恭子展「生殖の線と百刻みの刑」(ジィオデシックギャラリー/東京都)
銅金裕司・中村恭子展「シルトの岸辺」(Art Space Kimura ASK?/東京都)
- 2012
- 銅金裕司・中村恭子展「精神の経済学」(Art Space Kimura ASK?/東京都)
- 2015
- 口頭発表+展示:中村恭子日本画作品展「人が自然を産み出す話:異質なものの普遍性」(アジア・アフリカ言語文化研究所/東京都)
口頭発表+展示:中村恭子「空虚な坩堝:いまひとたびの壺葬論」(第9回内部観測研究会、早稲田大学/東京都)
- 2016
- 中村恭子展「首を擡げたアルシブラ」(Art Space Kimura ASK?/東京都)
- 2017
- 口頭発表+展示:中村恭子「SAWACHI DE MOBY DICK complete」(第11回内部観測研究会、早稲田大学/東京都)
中村恭子皿鉢絵巻展(Art Space Kimura ASK?/東京都)
口頭発表+展示:Nakamura,K.,Gunji,Y-P.,“ Entanglement of'art coefficient', or creativity”( Worlds of Entanglement,the Free University of Brussels/Belgium)
学芸員の解説
人間と社会を照らす
中村は日本画専攻ながら、生命科学や文学、哲学を渉猟し、人と生物との関係をめぐる思索と芸術表現の創出を目ざす気鋭の画家。圧巻の描写力と、緻密な画面構成によって、生命とは何かをめぐり、非現実の異世界を描き出し、人間の超未来をも遠望する。
哺乳類の「生きた化石」と呼ばれるカモノハシ。異質な部分が結合し、人間による分類を超えるような奇妙な姿を呈しており、この画家の新たな生命理解と芸術的展開への意欲をかきたてた。カモノハシの尻尾を、シャルル・フーリエ(1)が来るべき時代に人間に備わると唱えた「第五肢=万能肢」に類比し、未来の人間の新たな姿や世界を重ねる。
私たちが豊麗な姿として認識するランの花がエキゾチックな断片となって浮遊し、つながる作品には、官能的な迷宮に迷い込んだかのような目まいを覚えるが、ハナバチとランとの擬似交接からは、経済社会における人間の、貨幣との両義性さえ照らし出される。
「皿鉢」料理に登場する小動物のおどけた行動によって、大皿を囲む人びとが、刻まれた魚を互いに口に運ぶ行為が浮かび上がり、アニメーションのごとく次々と展開する長大な巻子作品では、外海を泳ぐ巨大な鯨が最後に対比的に描かれる。自然と共立する人間の新たな眼差しが暗示される。
陸と水とが無限に拮抗する汀(みぎわ)に生きるアサリは、海上に浮かぶ蜃気楼をみることができるのだろうか。生物個々が認知する主観的な世界は、いわばそれぞれのイリュージョンかもしれないが、蜂や鳥の眼を通して人間の姿を映す手法が埋め込まれ、人間の認識や眼差しを問うようだ。
ときに奇矯、奇想な画風だが、決してユートピアの夢想ではなく、意想外の異質なモチーフを対置し、人間の新しい生命像へのアプローチと絵画表現の果たす可能性を探る中村のスタンスは明瞭だ。
(1) 1772−1837フランスの哲学者、社会思想家
哺乳類の「生きた化石」と呼ばれるカモノハシ。異質な部分が結合し、人間による分類を超えるような奇妙な姿を呈しており、この画家の新たな生命理解と芸術的展開への意欲をかきたてた。カモノハシの尻尾を、シャルル・フーリエ(1)が来るべき時代に人間に備わると唱えた「第五肢=万能肢」に類比し、未来の人間の新たな姿や世界を重ねる。
私たちが豊麗な姿として認識するランの花がエキゾチックな断片となって浮遊し、つながる作品には、官能的な迷宮に迷い込んだかのような目まいを覚えるが、ハナバチとランとの擬似交接からは、経済社会における人間の、貨幣との両義性さえ照らし出される。
「皿鉢」料理に登場する小動物のおどけた行動によって、大皿を囲む人びとが、刻まれた魚を互いに口に運ぶ行為が浮かび上がり、アニメーションのごとく次々と展開する長大な巻子作品では、外海を泳ぐ巨大な鯨が最後に対比的に描かれる。自然と共立する人間の新たな眼差しが暗示される。
陸と水とが無限に拮抗する汀(みぎわ)に生きるアサリは、海上に浮かぶ蜃気楼をみることができるのだろうか。生物個々が認知する主観的な世界は、いわばそれぞれのイリュージョンかもしれないが、蜂や鳥の眼を通して人間の姿を映す手法が埋め込まれ、人間の認識や眼差しを問うようだ。
ときに奇矯、奇想な画風だが、決してユートピアの夢想ではなく、意想外の異質なモチーフを対置し、人間の新しい生命像へのアプローチと絵画表現の果たす可能性を探る中村のスタンスは明瞭だ。
(1) 1772−1837フランスの哲学者、社会思想家
赤羽 義洋(辰野美術館)
An up-and-coming artist, Nakamura Kyoko, who majored in Japanese-style painting, reads widely in the classics of life science, literature and philosophy, and strives for artistic creation through her thinking about the relationship between human beings and other living things. Utilizing her overwhelming graphic descriptive power while rendering juxtaposition of heterogeneous things in her paintings, she addresses the issue of what life is and represents panoramically her view of life in the far future as well.
In her work consisting of fragmented orchids, which represents the pseudo-copulation of bees and orchids, she renders another interpretation of human beings as the monetary force in the socio-economic system. She also lays the tail of a platypus on a human figure in her painting, assimilating it to a “fifth foot” of a future human being. In her picture scroll, fantasies flow out of dishes of “Sawachi Dishes,” which is reminiscent of animation films. In her work, she seems to imply a co-existence of human beings with nature, through other living organisms and the irregularly sliced food that she rendered.
In her work consisting of fragmented orchids, which represents the pseudo-copulation of bees and orchids, she renders another interpretation of human beings as the monetary force in the socio-economic system. She also lays the tail of a platypus on a human figure in her painting, assimilating it to a “fifth foot” of a future human being. In her picture scroll, fantasies flow out of dishes of “Sawachi Dishes,” which is reminiscent of animation films. In her work, she seems to imply a co-existence of human beings with nature, through other living organisms and the irregularly sliced food that she rendered.
Akahane Yoshihiro(Tatsuno Art Museum)
開催会場
南信
諏訪市美術館
- 住所
- 〒392-0027
長野県諏訪市湖岸通り4-1-14
- 電話番号
- 0266-52-1217
- 開館時間
- 9:00~17:00
- 閉館日
- 月曜と祝日の翌日休
「シンビズム -信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち-」会期中は開館時間、閉館日が通常と異なっております