SHINBISM | シンビズム | 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ作家たち

ARTISTS

  • 《T家の転回》2017年
    撮影:谷浦龍一
  • 《T家の転回》2017年
    撮影:谷浦龍一
  • 《浮く家》2019年 Reborn-Art Festival 2019
    撮影:樋口勇輝
  • 《浮く家》2019年 Reborn-Art Festival 2019
    撮影:樋口勇輝
  • 《衝突(あるいは裂け目)》2021年 北アルプス国際芸術祭2020-2021
    撮影:本郷毅史
  • 《衝突(あるいは裂け目)》2021年 北アルプス国際芸術祭2020-2021
    撮影:本郷毅史
  • 《衝突(あるいは裂け目)》2021年 北アルプス国際芸術祭2020-2021
    撮影:本郷毅史
  • 《解体》2021−2023年 三菱商事アート・ゲート・プログラム
    撮影:堀本喜正
  • 《解体》2021−2023年 三菱商事アート・ゲート・プログラム
    撮影:樋口勇輝
  • 《Steps》2021年 TERRADA ART AWARD 2021
    撮影:Tatsuyuki Tayama
  • 《Steps》2021年 MASK Open Storage2022
    撮影:仲川あい
  • 《Steps》2021年 越後妻有里山現代美術館 MonET
    撮影:Nakamura Osamu
  • 《Steps》2021年 Shinbism2022
    撮影:OOIGAWA MOHEY

持田敦子ATSUKO Mochida

インスタレーション
日本語
ENGLISH

インスタレーション作品を初めて作ったのは武蔵野美術大学で日本画を学んでいる時だった。最初は絵を空間に引き出し、鑑賞者と関わりを持たせるためにはどうしたら良いかと考え、壁や床に絵を描いたりしていたが、あまりにも上手くいかず、卒業制作の時に思い切って描くことをやめた。そのかわり、自身と最も親密な関係を持つ壁である、育ってきた部屋のベッドサイドの壁を1辺約6mの正方形に拡張して、大学校舎の階段に突き刺した。当時は大きな構造物の作り方など全くわからなかったが、幸運にもアドバイスをくれたり、手を貸してくれる教員や友人に恵まれた。

その時から今まで、インスタレーションを作り続けている。自分でも実現できるかどうかわからないビジョンを掲げ、多くの人の知恵と力を借りて、なんとか現実に形をみつけていく。その過程で起こる葛藤や失敗から何かを学び、それがまた新たな作品へと育っていく。

I made my first installation work while I was still studying Japanese painting at Musashino Art University. Back then I was thinking about how to bring my paintings into three dimensional space and let them communicate with viewers. To that end, I tried to paint and draw on walls, or floors, but I was not satisfied with the result.

While preparing my graduation work I finally decided to stop painting. Instead, I created a work of installation. That work was inspired by the wall next to my bed in my parents house, to which I felt a closer relationship. I built a 6 meter by 6 meter wall, based on the wall in my room, and inserted it into the staircase of my university building. I had no prior experience with building large-scale structures back then, so I was very fortunate to have many teachers and friends assisting me with their advice and practical help.

Since then, I have been doing mainly installations. I often come up with a big idea, not knowing if I will be able to realize it. Then I borrow the knowledge and power of many people around me, and somehow the idea takes shape in reality. I learn a lot from the conflicts and failures that arise during that process, which inspires me to move on to new projects.

略歴

1989 東京都生まれ
2013 武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業
2014 東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻入学
2015 バウハウス大学ワイマール大学院に交換留学、その後東京藝術大学を休学し正規留学
2018 東京藝術大学修了、その後バウハウス大学修了
2018−19 平成30年度ポーラ美術振興財団在外研修員としてドイツ、シンガポールにて研修
2021−23 三菱商事アート・ゲート・プログラム選出
2022 ART news JAPAN「30 ARTISTS U35」選出

おもな作品発表歴

2018 日本・キューバ現代美術展『近くへの遠回り』(ウィルフレド・ラム現代美術センター/キューバ)
2018 『近くへの遠回り』帰国展(スパイラル/東京都)
2018 アートアワードトーキョー丸の内2018(東京駅行幸地下ギャラリー/東京都)
2018 Young Talent Programme(Affordable Art Fair /シンガポール)
2018 CAF賞 2018(代官山ヒルサイドテラス/東京都)
2019 『unfinished hase』(Alte Handelsschule/ドイツ)
2019 3331 ArtFair (3331 Arts Chiyoda/東京都)
2019 『FAST KOTZEN』(PILOTENKUECHE/ドイツ)
2019 フューチャースケープ・プロジェクト(象の鼻パーク、象の鼻テラス/神奈川県)
2019 リボーンアート・フェスティバル(宮城県)
2020 『2020年のさざえ堂 - 現代の螺旋と100枚の絵』 (太田市美術館・図書館/群馬県)
2020 札幌国際芸術祭(北海道)
2021 北アルプス国際芸術祭 2020−2021(大町市)
2021−23 Open Storage −拡張する収蔵庫− メインアー ティスト(MASK /大阪府)
2021 TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展(寺田倉庫/東京都)
2023 『越後妻有 雪の様相I』(越後妻有里山現代美術館 MonET /新潟県)
2023 KOBE Re: Public ART PROJECT(兵庫県)

おもな受賞歴

2015 BAUHAUS ESSENTIALS(バウハウス大学)
2018 サロン・ド・プランタン賞(東京藝術大学)
2018 齋藤精一賞(CAF賞)
2018 今村有策賞(アートアワードトーキョー丸の内)
2021 片岡真美賞(TERRADA ART AWARD)

STATEMENTステートメント

日本語
ENGLISH

他者になる構造物と、その展開

持田敦子の作品は、一見して私たちのよく見知っている構造物の姿をしている。それは壁だったり、階段だったり、家そのものだったりする。けれど、近くで見たり、内部に入り込んだりすると、その違和に気付く。壁面は押されて部屋をつぶすような事態になるし、家は切断、加工が施され、日常そのものだった場所が、ディテールは変化しないにもかかわらず、根本的な構造が変容してしまっている。そして階段は、さまざまな環境に飛び出し、まるで生き物のようにそこに居場所を得てしまう。私たち生活者をそっと見守り、日常を成立させてきた構造物は、持田と複数の協力者の手によって他者になり、作品として存在している。生活の一部としての構造物が一変して他者になること。この既存のシステムの変容から生じる構造物と観者との緊張関係によって、持田のインスタレーションは、強い引力を持って成立している。

さて、日本画専攻の学生として美術教育を受けた持田は、卒業制作のタイミングからインスタレーション作品を発表している。絵画を成立させる「画面」という要素は、彼女にとってあまり相性が良くなかったが、それを認識したがために、世界を表現の支持体にしたインスタレーションに転移した。

以降、持田は「プライベートとパブリックの境界や当然とされる慣習や規範にゆらぎを与える作品」※1と評される、冒頭で示したようなインスタレーションを国内外で発表してきた。ドイツ、シンガポール、キューバなどで制作されている作品には、母国以外の地で自身が経験したことや、身の回りで起こっている社会課題を、彼女が頻繁に用いる壁や階段に投影させて、時にパフォーマンスを交えて展開している。

日本での展開も、社会における「慣習や規範」への視線を建築構造に重ね、大型のプロジェクトとして成立させている。たとえば、2019年、象の鼻パーク・象の鼻テラス10周年記念事業「フューチャースケープ・プロジェクト」における《Steps》。これは、工事現場で用いられる足場を使った大型インスタレーションである。ここでは足場の階段が人体一人分のスケールとなっており、足場の先にある線路跡の遊歩道と対比されることで、階段という構造から、見慣れた都市のスケールを肌感覚で再定義しうる経験につながっている。

このような展開を経てきた持田の作品は、大型のインスタレーションが多いために、展示期間が終了すると作品は解体され、ドキュメント(写真や映像、報告書などの記録)のみが残る。作品の性質上逃れられない、こうした状況への応答と見ることができる展開が、今、二つのバリエーションで存在する。

ひとつは、「TERRADA ART AWARD 2021ファイナリスト展」出品作の《Steps》(2021年〜)だ。本作は、「組み替え可能な階段ユニットを設計・制作。傾斜地や崩壊地も含めたあらゆる空間に展開できるシステムを目指した」※2と作家により説明されている通り、場に対して順応的な作品だ。作品は各地を転々としながらその場に応じて組み上げられ、観者の前に現れる。こうして経験値が蓄積されていき、本作の本来的な在り方に近づいていくようだ。

そしてもうひとつがプロジェクト「解体」(2021年〜)だ。本プロジェクトは、「解体」のプロセスそれ自体を作品として提示する試みである。2023年2月時点で、長野県飯田市内の住宅を対象に、プロジェクトが進行中だ。確かに人の営みがあったその家が、まっさらな更地になるまでのそ
の過程を、持田は作品制作に転換させる。床を抜き、壁を剥ぐことで見えてくる家の歴史やユニークな構造。それを拾い上げることで、仮止めの作品として再構築しながら、ゼロになる時まで付き合い続ける。

持田は、人々の意識に内面化されていた構造物を、他者として、バリエーションを持って提示している。現在、《Steps》においては、一度限りで別れを告げるのではなく、各地を旅し、作品自体に時と場の記憶を刻むことで、自身の他のインスタレーション作品にはない在り方を果たそうとしている。さらに別の展開では、既存の建築を解体しつつ、発見、再構築していくことで、その構造物の秘められていた一面を提示しながら、人々の記憶に生きる〝仕舞い方〟を図っているように見える。

インスタレーションは、空間としての在り方だけでなく、時間としての在り方も問題になる。持田は、《Steps》(2021年〜)およびプロジェクト「解体」から、インスタレーションを時間にどう付き合わせていくべきかを模索しているように思える。他者としての構造物は、後世に、どのような姿で残っていくのか。これからも彼女の取り組みを注視したい。

  • 1 木ノ下智恵子「「拓く人」についての考察――持田敦子をめぐる仮説1」(『拡張する収蔵庫Open Storage 2021』(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA、展示マップ)

  • 2 MEGA ART STORAGE KITAKAGAYAにおける持田作品の年譜展示内《Steps》(2021年)解説より

太田市美術館・図書館 矢ケ崎結花

Structures to be Transformed into Others,
and their Development

The works of MOCHIDA Atsuko, at a glance, take on the form of constructions which are familiar to us. Sometimes, they exist as walls, staircases or houses themselves. However, if we view them closer, or go inside, we find they are different. The constructions, that watch over us quietly, though are essential for everyday life, become something else in the hands of MOCHIDA and her collaborators, and exist as works of art. In other words, her works come into existence as works of installation by transforming existing systems and causing tension between the constructions and viewers.

ART MUSEUM & LIBRARY, OTA Yagasaki, Yuka

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