SHINBISM | シンビズム | 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ作家たち

ARTISTS

  • 《PLAY THE GLASS cantabile (Shall we dance?)》2012年
  • 《PLAY THE GLASS con tenerezza(優しくなでて)》2003年
  • 《PLAY THE GLASS inorganic live(s 無機生物)》2014年
  • 《PLAY THE GLASS vento di venezia(ヴェネツィアの風)》2002年
  • 《PLAY THE GLASS con brio》1999年
  • 《PLAY THE GLASS adirato(怒り)》2009年

増田 洋美MASUDA Hiromi

ガラス
増田洋美
日本語
ENGLISH

ガラスで遊び、ガラスを奏でるという意味を込めた「PLAYTHEGLASS」。鉄の吹き竿の先に巻き取ったガラスで作業しているとき私が感じていることです。

何年もガラスで遊んでいるうちに、ガラスは熱く軟らかいという形に行き着きました。有機的な形で軟らかさを伝えるとき、冷たく硬いはずのガラスは血の通う生き物のような温かさを人に伝えるようです。

ヴェネツィアで制作、展示をするようになってから、ほとんどが歴史ある場所を借りての展示が多くなりました。最近はお借りした舞台でガラスたちが演技「PLAY」していると思うようになり、舞台にあわせて展示しています。

このたびは中野小学校旧校舎を舞台にさせていただくことになり、校舎の内外にガラスたちが展開するPLAYを楽しんでいただけましたらとてもうれしいです。

In my installations entitled “PLAY THE GLASS,” the word “play” meant both having a good time and playing the glass as if it were a musical instrument. This is how I felt when I worked with some molten glass rolled up on the tip of an iron blowpipe.

Having played with glass for a number of years, I came to realize that glass is hot and malleable. When I convey the softness of glass in its organic form, the glass, which ought to be cold and hard, seems to emanate warmth in the same way as living creatures with flesh and blood do.

Ever since I started creating and exhibiting in Venice, I have had a greater opportunity to hold exhibitions mostly at historical places. Lately, at the exhibition venues I have been granted use of, I came to feel as if my glassworks were performing a “PLAY” on the stages. Since then, I exhibit my works in accordance with the atmosphere of the stages provided for my exhibitions.

This time, I have the honor of using this old building, which was once Nakano Elementary School, as the stage for my works. It would be my pleasure if you can enjoy the “PLAY” performed by my glassworks inside and outside the school building.

略歴

1942 神奈川県生まれ
1966 東京藝術大学美術学部工芸科卒業
1969 東京藝術大学大学院鋳金科修了
1981 ガラス制作をはじめる
2000 ヴェネツィア(ムラノ島)にて制作をはじめる

おもな作品発表歴

1985 「国際ガラス展」(ルーアン美術館/フランス)
2002 「第5回OPEN」日本代表(イタリア)
2003 個展(サン・フランチェスコ教会 中庭/イタリア)、「アートサミット」招待出品(ナショナルギャラリー/インドネシア)
2004 個展(MIM美術館/イタリア)
2005 「ヴェネツィア/ビエンナーレ」公式個人参加(サンジョバンニバッティスタ教会集会所/イタリア)、「SOUL」展招待出品(モダンアート美術館/ベルギー)、個展(国立博物館/インドネシア)
2006 ローマ遺跡インスタレ−ション(TEMPIOdi APOLLO・FORI TRAIANEI /イタリア)、個展(湯島聖堂/東京都)
2007 個展(Galleria /イタリア、FUORI SARONE参加)
2009 「静寂と色彩」(DIC川村記念美術館/千葉県)
2010 個展(新潟市新津美術館/新潟県)
2012 個展(酒田市美術館・本間美術館・土門拳記念館 3館同時開催/山形県)、現代美術展inとよはし(愛知県)
2013 「もうひとつの自然」(小海町高原美術館/小海町)
2014 個展(おぶせミュージアム・中島千波館/小布施町)
2016 「生への言祝ぎ」(大分県立美術館/大分県)
2018 個展(オーストリア)、個展(イタリア)
2019 平和大通り芸術展(広島県)

おもな受賞歴

1970 第9回現代日本美術展入選(アルミオブジェ)
1991 横浜彫刻展入選(野外作品制作)

STATEMENTステートメント

日本語
ENGLISH

ガラスのやわらかさを伝える

「ガラスはやわらかい。そのことをガラスが知らせなさいといっている」

増田洋美は近年、自身が続けてきたガラス制作を振り返りこのような思いに至ったという。彼女の作品は、熔けたガラスを鉄竿に巻き取り息を吹き込む、宙吹き技法で作られている。不規則につぶれた球状、先端が長く伸びたしずく状、水がはねた瞬間を固めたような水しぶき状など、色ガラスによるダイナミックな形体のオブジェたちは、何百という集団でさまざまな空間に出現する。世界各地で展開される増田のインスタレーションを支えているのが、ガラスの本来の姿―やわらかさを伝えたい、という思いだ。

38年前、ガラスと出会い魅せられた当初から、増田はその歴史やテクニックをいったん脇に置き、ガラスと自由に遊ぶことに専念してきた。伝統的なガラスの聖地ヴェネツィアに制作拠点を移した2000年以降も、その姿勢は貫かれている。肩の力を抜き、素直にガラスと向き合うなかでみつけた面白さが、「やわらかさ」だった。

増田の魅了された「ガラスのもつやわらかさ」とは何であろうか。

ひとつは、制作過程で現れる、材質としての軟らかさである。ガラスは高温で液状にとろけ、瞬時に成形されていく。「頭で考えるより先に、(吹き竿を通して)体に伝わってくる素材感」と作家が述べるように、吹きガラス制作は即興性や偶然性、瞬時の判断にゆだねられる。めまぐるしい作業のなかで瞬く間に形を変えるガラスは、イマジネーションをかきたて、自身を解放する素材なのである。大学で工芸、大学院で鋳金を専攻し、金属をはじめとする他素材に触れてきた増田は、ほかの材質と異なるガラスの軟らかい素材感をことさら敏感に感じ取ったのかもしれない。流動体としてのガラスの記憶を留める水しぶき状オブジェや、丸く膨らんだガラスを棒でつぶしそのまま冷やし固めた球状オブジェのように、宙吹きガラスだからこそ作れる形を追求し、柔らかさを表現している。作品の表面にきらびやかな装飾が施されていないのは、ガラスそのものの軟らかい素材感を伝えようとする作家の意志の表れであろう。技巧を駆使することよりむしろ、ガラスの本質に立ち返ることを選んだのである。

ふたつ目は、凝り固まった概念を揺さぶり打ち崩す、柔軟な存在としての柔らかさである。増田は、何百ものガラス作品たちとともに、ヴェネツィアの教会の中庭、インドネシアの海岸、日本式家屋の畳のうえなど、さまざまな空間を舞台にインスタレーションを繰り広げてきた。場所に合わせてガラスの色彩や質感を選び、作家いわく「ガラスたちがその場所を生かして居心地よいようにすることを心がけて展示」している。それぞれの場所で、ガラスの作品群は変幻自在に表情を変える。しずくや水しぶきをかたどったオブジェは空間を流れる波や風となる。不規則につぶれた球状のガラスは、その場所の空気を取り込み、思い思いに呼吸をしているかのようだ。インスタレーションのなかで、ガラスたちは、目には見えない空気の流れや、空間の声なき声を拾いあげる媒体となる。物であること、作品であることを超えて、ガラスが空間に共鳴し新たな物語を紡ぎだす点は、増田のガラス・アートのユニークさであろう。また、彼女の創作物は、目の錯覚をいざなう作りになっている。たとえば、伸縮するゴムの質感を思わせる黒い艶消しガラスや、粘り気のある金属のような鏡面仕上げのガラス、軽やかな風船と見紛う色とりどりのガラスだ。両腕のなかにちょうど収まる大きさのそれらを持つと、みかけよりも肉厚でずっしりと重いことに驚かされる。鑑賞者は、作品を前に感覚の心地よい揺らぎを体感することになるのだ。さらに、ガラスに反射する景色や、ガラス越しに見る景色は凹凸でゆがみ、世界を思いもよらない角度から映し出す。増田のインスタレーションは、ガラスの内と外、両側で見慣れた景色を変容させるのである。

制作過程で現れる素材としての軟らかさと、インスタレーションで醸し出される存在としての柔らかさ。彼女はガラスにそれをみとめ、引き出してきた。インスタレーションには、共通の題名≪PLAYTHEGLASS≫が付けられている。その名のとおり、ガラスで遊ぶなかで見出した真実が、空間に展開される。中野小学校旧校舎で、ガラスたちはどのような音楽を奏でてくれるのだろう。世界を旅してきたガラスたちと、子どもたちのかつての学び舎との共演が楽しみである。

中野市立博物館 小林 宏子

Conveying the “Softness” of Glass

What supports Hiromi Masuda’s worldwide exhibitions of installation is her desire to convey the true form of glass — its softness — which she discovered out while “playing” with glass. One of her desires is to convey its “softness” materialistically. The glassblowing techniques which enable her to immediately form hot, molten glass into artwork fascinated her. By producing works, including objects in the shapes of splashed water and unevenly squashed globules, she pursues forms which impart to us glass as a “soft” material. Her second desire is to convey glass as a malleable substance, which conflicts with our preconceived ideas. Her series of works change their expressions in resonance with the spaces they are displayed. Her works, inducing viewers’ illusions together with the distorted landscapes reflected on them, will surely sway the viewers’ senses.

Nakano City Museum Kobayashi, Hiroko

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