SHINBISM | シンビズム | 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ作家たち

ARTISTS

  • 《子供》2022年
  • 《家》2022年
  • 《氷の上》2018年
  • 《こたつ》2019年
  • 《景色》2019年
  • 《雨の日》2015年

疋田義明HIKITA Yoshiaki

油彩
疋田義明
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ENGLISH

僕は主に油絵具やアクリル絵具、クレヨン等を用いて紙やキャンバスに絵を描いています。何をどのように描こうかといったことは曖昧なまま、紙の上に絵具を乗せてみて、その様子を眺めながらどのように描いていこうかを考えて制作していくことが多いように思います。絵具が薄く掠れたように乾いていたり、いくつかの異なった色が混ざりきらず、絡まるようにして筆跡を形作っていたりと絵具の現れ方は描く度に違っていて面白く思います。

そのようにして描いていますので、いつも絵具や色彩に振り回され迷いながら制作しているのかなと思います。

I mainly draw pictures on paper or canvas using colors such as painting oils, acrylics and crayons. I try to put colors on paper without deciding what or how to draw. Observing how they appear on paper or canvas, I often decide step-by-step how to proceed. Sometimes, I come across the dried and thinly painted colors with scratching touches. At other times, I come across brushstrokes with different colors, which are left unmixed, entangled with each other. The appearance of colors changes as I draw. It is fun! That is the way I draw and paint. I always hesitantly produce my works at the mercy of paints and colors.

略歴

1992 長野県長野市生まれ
2015 武蔵野美術大学油絵学科卒業

おもな作品発表歴

2015頃− 「北斗会洋画展」(ギャラリー82 /長野市)
2015・16・18・22 「N-ART」(ガレリア表参道/長野市)
2016 「内在する触感 Touch with skin(志賀高原ロマン美術館/山ノ内町)
2017 「でこぼこな人物たち」(ギャラリー豆蔵/長野市)
2018 シーズンプログラム第22回「疋田義明展」(数寄和/東京都)
2019 「まつしろ現代芸術フェスティバル」(泉水路ラボラトリー/長野市)
2020 「疋田義明展」(蕎麦料理処萱 昭和蔵/千曲市)、「絵と絵展」(志賀高原ロマン美術館/山ノ内町)、「赤羽雄太+疋田義明展」(元麻布ギャラリー佐久平/ 佐久市)
2022 「疋田義明展」(Banana Moon画廊二階展示室/安曇野市)、ナガノオルタナティブ2022−個的倫理−「疋田義昭展」(FLAT FILE SLASH /長野市)、「as if」(数寄和/東京都)、「Ast展」(千曲市アートまちかど/千曲市)

STATEMENTステートメント

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不定形の心地よさ

居住空間と融け合ったアトリエは、絵画を呼吸で鑑賞できるかのような、濃密な空気に満ちていた。

室内にはサイズの異なる複数のキャンバスが立てかけられ、数え切れない量のドローイングが積み重なっている。ドローイングにも油絵具が用いられており、作家によると、これらは酸化を防ぐため画用紙に下塗りを施してから描かれているらしい。支持体は一般的な平面絵画に用いられるものに限らず、メモ帳やレシート、木材などにまで及ぶ。半年以上使い続けているというパレットには、色彩とマチエールが時間経過の痕跡をともなって蓄積され、さまざまな素材による表現が混淆するこの空間では、それ自体がひとつの作品として成立しているように見える。常に複数の作品の制作を同時に進行させており、一週間ほど手を止めて印象が変わるのを待つ場合もあるという。

こうしてアトリエ内の作品を見ていくと、一般的にはタブローとドローイングに二分できる両者の間には、明確な区別がないことが分かる。物質、時間、空間といった、作品を構成するありとあらゆる要素に線引きをしない、いわば不定形の在り方が、疋田義明の作家性を端的に物語っている。

疋田は1992年に長野市で生まれた。画家としての資質の萌芽をもたらしたのは、高校時代の美術教師で、同じく「シンビズム5」の出展作家でもある長門裕幸であった。疋田は「絵具をもっと楽しめ」と指導する長門と間近で接するうちに、絵を描く行為そのものの喜びに自覚的になったと回想している。在学中の2009年に安曇野市豊科近代美術館で初めて目にした白髪一雄の作品にも共鳴し、絵具を扱う感覚を一層研ぎ澄ませていった。その後、本格的に絵の道へ進むことを決心し、2011年に武蔵野美術大学油絵学科へ入学する。2015年に卒業した後は郷里に戻り、自宅内のアトリエで制作を続けている。

武蔵野美術大学卒業制作優秀作品賞を受賞した《雨の日》をはじめ、疋田の絵画には人物がしばしば登場する。一緒に暮らす家族など身近な人の顔や姿を用いることが多いというが、対象の個性を意識しながらも、描いていくうちにどこの誰ともつかない人物像になっていく。また、日々の移動手段である自転車も頻出するモチーフである。

疋田にとって、自転車は単なる乗り物としてだけでなく、自動車の速度では十分に捉えることのできない風景などを、拾い集めて記憶に留めておくためのツールとしても機能している。前述の人物像を描くことにも、出会った人を日記のように記録する目的が含まれているという。このように、普段の生活の中で目の前に現れては移ろうものを大切にアーカイブすることが、疋田の絵画制作における動機や目的のひとつとなっている。

疋田のもうひとつの重要な動機は「心地よさ」である。キャンバスや紙に触れること、線を引くこと、筆やペインティングナイフで絵具を乗せること、クレヨンで描いた部分を指でなぞること、色を響き合わせること。高校生の頃の原体験から変わらず、各行程で瞬間的に感じ取る心地よさが、作家を作品制作に向かわせている。その最たる例は、近作である額縁の端材を用いた作品に見ることができる。これらの作品群は、端材の表面や角を「触っていて気持ちがいいと感じられるところまで」研磨した後、筆触を残して彩色されている。疋田の多くの作品は平面作品に分類されるが、制作する時に身体で受容する感覚は、常に多面的に働いているようである。このことは支持体に対する考え方にも表れている。疋田は、大きさや形を自由に選べる紙などと比べて、定型的な四角いキャンバスは苦手であると語るが、一方でキャンバスの持つ彫刻的な立体感と緊張感には惹かれるという。

生活に即して身近な事物を五感で捉え、強く意識しなくとも既成の枠組みを超えていける疋田の表現は、私たちの目に温かく魅力的に映る。ところが、作家自身は常に悩んだり振り回されたりしていて、しっくりくる地点をまだ見つけられていないと話す。アトリエの壁には参考にと薦められた作品の写真や、印象に残った新聞記事の切り抜き、制作の中で感じたことの覚え書きなどが貼り付けられており、外部からの刺激を貪欲に吸収しようとしている。また、小型の作品を組み合わせた展示の実験や、日記を着想源とした冊子状の作品制作なども試みられている。

たとえば私たちが子どもの頃、初めて地面にチョークで線を引いたときに身体中を駆け巡った感動は、どれほどのものであっただろうか。疋田の不定形の表現が伝えるのは、そのような根源的感覚である。「心地よさ」を追い求めていく先に、これからも思いもよらない展開が待っているはずである。

川越市立美術館 伊能あずさ

The Comfort of being Amorphous

HIKITA Yoshiaki, born in 1992 in Nagano, continues to produce his works at home after graduating from Department of Painting of Musashino Art University in 2015. The familiar objects around him, such as his family living with him and the bicycles which are his daily mode of transportation, are the motifs of his works.

In his studio, not only his paintings on canvas, but also his drawings done with various materials, pile up in layers. The supports range from ones used for general plane paintings, such as paper or canvas, to receipts, and even remnants of picture frame manufacturing. His source of creative activity, as he says, is the joy of dealing with paints. He continues to pursue “comfort,” by sharpening his five senses.

Kawagoe City Art Museum Ino, Azusa

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