SHINBISM6 | シンビズム6 | 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ作家たち

ARTISTS

  • 宇賀神拓也≪emergence-4≫
    《emergence #4》2024年
  • 《Obsidian #3-A》2025年
    《Obsidian #3-A》2025年

宇賀神拓也UGAJIN Takuya

写真
宇賀神拓也
日本語
ENGLISH

朝日村に移り住み12年。米をつくり、薪割りをしながら、村内でテーマをみつけ、写真作品制作を行っている。この地に暮らし、手を動かすことで、夢中になれるテーマが見つかる。制作においてはフィルムで撮影し、自分で印画紙を裁断し、暗室でプリントをしている。暗室のなかで光によって印画紙にイメージを焼き付けることで、写真が光のテクノロジーであることを実感する。そして暗闇に浮かびあがるイメージに感動するたび、200年ほど昔、初めて写真を見て心底驚いた先人たちのことが頭をよぎる。写真の源流により近い暗室体験は、私の制作のインスピレーションの源泉であると言っていい。
ここ数年、考古学的なモチーフをテーマにした作品に取り組んでいる。今回は朝日村およびその周辺で出土した縄文時代の石器を撮影した写真の展示を行う。やじりなどの石器の多くは黒曜石でできているが、黒曜石はガラス質のため光をよく通す。その特性に着目し、異なるライティングで石器の対称的な姿を浮かびあがらせる。そして、展示会場である和室特有の畳や障子といった仕切り線をフレームとして用いることで、インスタレーションとしての要素も展示に取り入れたい。

It’s been 12 years since I moved in Asahi village. I create photographic works finding themes within the village, while growing rice and splitting firewood. Living in this place and working with my hands enables me to discover a motif that fascinates me.
As for creating works, I photograph using film, cutting photographic paper by myself and printing in the darkroom.
By printing out images on photographic paper using light in the dark room, I realize that photography is a technology of light.
Whenever I am moved by the images becoming visible in the darkness, a scene that our ancestors were astonished by the photographs they saw for the first time about 200 years ago crosses my mind.
It’s safe to say that my experience in the darkroom, similar to the origin of photography, is a source of my inspiration.
Recently, I’m working on the works under the theme of archeological motifs. This time, I will exhibit photographs using stone tools from the Jomon Period, excavated in Asahi village and its surrounding areas, as a motif.
By the way, as most stone tools including arrowheads were made of obsidian that is glassy by nature, they transmit light well. Focusing on its characteristics, I am trying to bring out the symmetrical shapes of the stone tools under different lighting in this exhibition. Moreover, I would like to incorporate elements of installation into my work, by employing partition lines, intrinsic to tatami mats or shoji screens that are characteristic of Japanese rooms as frames for my works.

略歴

1976 東京都生まれ
2001 早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒業
2012 エチオピア、インドなどで4年生活したのち帰国、長野県東筑摩郡朝日村に移住
2023− 朝日村にて暗室完備のギャラリー兼スタジオ「BLUE HOUSE STUDIO」主宰

主な作品発表歴

2018 「ハイエナの夢」(gallery201/東京都)
「cave」(GREEN FINDS KAMAKURA /神奈川県)
2019 「cave」(朝日美術館/朝日村)
2021 「かがむ人」(ニコンプラザ東京 ニコンサロン/東京都)
「JOMON-SPIRAL」(gallery 2 01/東京都)
「JOMON-SPIRAL」(Cy /神奈川県)
2022 「JOMON-SPIRAL」(GRAIN NOTE /松本市)
2023 「いのちの穂先」(Cy /神奈川県)
「いのちの穂先」(BLUE HOUSE STUDIO /朝日村)
2024 「掘り下げる写真-人と土の営み」(塩尻市立図書館え んぱーく/塩尻市)
「emergence」(kanzan gallery /東京都)
「emergence」(BLUE HOUSE STUDIO /朝日村)

おもな受賞歴

2022 塩竈フォトフェスティバル2022 Nikon賞

STATEMENTステートメント

宇賀神拓也の眼差しとうつろいゆくものたち

宇賀神拓也がカメラのレンズを通して世界を写し取ろうとシャッターを切りはじめたのは、大学の写真部に所属していた頃だ。早稲田大学で東洋哲学を学んでいた宇賀神は「写真を撮ることは好きだったが、なぜ写真が面白いのかがわかっていなかった」と語っている。大学時代に持った写真表現への好奇心が、後に探求へ向かう原動力となっていく。早稲田大学を卒業し、就職をしてからも写真表現に対する関心を持ち続けていた。ある日ふと世界の写真界はどうなっているのだろうと調べはじめると、自分と写真の関係性について腑に落ちた瞬間があったという。「写真はものの視点を提示するメディアでありうつろいゆくものを今この瞬間に定着していく」と語り、自分自身の喜びから、写真を通して広い世界との関わりを構築することを意識する分岐点となった。

長野県朝日村へ移住したのは2012年である。農的暮らしを求めて移り住んだ村では米や野菜、味噌醤油を手作りし、住民と交流していくなかで少しずつ地域に根を張っていった。日々の暮らしから創作のアイデアは広がり、野菜や農具といった身近で手が届くものを撮影しはじめると、次第に農風景や畑で働く住民など外へ視界が開いていく。日々畑に向かい鍬を振り上げ土を耕す人と同じように、カメラを構え撮影をする宇賀神は、人と土の営みという大きなテーマに取り組みはじめた。農作業に励む人々のかがむ姿勢に着目し制作した《かがむ人》は、人びとが手に苗や農具を持ちかがんで土と向き合う姿が撮影されている。かがむ姿勢で顔は隠れており表情を読み取ることはできないが、その姿は農村の景色に溶け込み普遍的な朝日村の人びとの営みを感じさせる。さらに、人びとが背中を丸めかがむ姿は、まるで母体のなかの胎児を連想させた。原点に立ち返る一瞬の姿を捉え、人の一生として昇華させているともいえよう。そして、宇賀神の視線は人の営みの痕跡を辿るように現代から過去へと移動していく。彼にとって営みのプロセスを知りたいという願いが、過去に戻っていくことをごく自然と受け入れていた。

その後、朝日村の分譲予定地で縄文土器の破片が見つかった際、発掘調査を行う現場の撮影機会を得た宇賀神は、そこで縄文時代の地層から遺物が出土する様子に衝撃を受ける。「かつて縄文の人々と共に生きた土器は道具としては一度死に、地中の闇に5000年近く沈んだのち、人間の手によって掘り起こされ、再び光を浴びる。かつての人々が土に刻んだ生の痕跡をなぞり、手、眼、身体の感覚を総動員して行われる発掘作業とは、土を通した死者との対話だ。発掘の瞬間に立ち上がる未知なるイメージを写真で記録したい。その衝動に掻き立てられ、毎日のように現場に通い夢中でその姿をフィルムに収めた」※1とし、遺物が出土する過程や発掘現場の生なましさを記録するため、大判フィルムカメラによる撮影を試みた。遠い過去のできごとを現代の自分のこととして扱いたいと考える宇賀神にとって、自分と過去を繋ぐ道具が写真であった。

同じく朝日村で出土した縄文土器中期(約4000〜5000年前)の鏃(やじり)を撮影した作品群は、ライトボックスと呼ばれるネガを見るために使用する蛍光灯の入った明るい箱のうえに鏃を置き、大判フィルムカメラで接写したものだ。鏃の大きさは2、3cmほどで、黒曜石から作られている。黒曜石の見た目は黒い石だが、急激に冷えたマグマが固まってできたガラス質の鉱物で光をよく通す。ファインダーから見る透明と黒の模様は、鏃の輪郭を何度も削り落とすことで生まれた人の手の跡である。同じ型はひとつもない小さな欠片は偶然か必然なのか、狩りのための道具として形作られた。「大昔、石工の匠は黒曜石という自然を読み、ひとつひとつ自らの手で完成させたこの鏃を指でつまみ、太陽の光に透かし、満足して「よし」とつぶやいたことだろう。そんな鏃の姿を5000年後の子孫である私はカメラのテクノロジーでフィルムに焼きつける」※2と語る。光と闇に浮かぶ鏃の姿は命を繋ぐことへの祈りと執着、生きる喜びと悲しみのように対比する。

「写真は断片だから一度に捉えられない」と語った宇賀神は自身の営みと重ねながらうつろいゆくものたちをつかみ、抱えてきた時間を写真に内包させる。被写体が変化しても変わらない「土と人の営み」への眼差しは過去と現在を交差し、今を生きる私たちの前にその姿を浮かび上がらせる。

  • 1 公式サイト「Takuya Ugajin Photography Work emergence」
    (https://takuya-ugajin.com/works/emergence/)ポートフォリオ内解説
  • 2 公式サイト「Takuya Ugajin Photography Work Obsidian」
    (https://takuya-ugajin.com/works/obsidian/)ポートフォリオ内解説

木祖村教育委員会 坂口 佳奈

関連シンビズム

関連会場