SHINBISM6 | シンビズム6 | 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ作家たち

MUSEUMS

小海町高原美術館
長野県南佐久郡小海町大字豊里5918-2  Google Map
TEL:
0267-93-2133
休館日:
火曜休(祝日の場合は翌日)
開館時間:
9:00-17:00(入場は16:30まで)
小海町高原美術館

・中央自動車道「須玉IC」、上信越自動車道「佐久IC」、中部横断自動車道「八千穂高原IC」より国道141号線を経て、「松原湖 入 口」の信号を松原湖方面へ約4km
・中央自動車道「須玉I.C」から美術館まで約47km
・上信越自動車道「八千穂高原I.C」から美術館まで約14km

ESSAYエッセイ

「小海町」×「高原」×「美術館」が生み出すもの

八ヶ岳の麓、松原湖高原の丘陵に建つ小海町高原美術館。人間国宝の島岡達三(1919−2007)の陶芸作品をはじめ、小海町ゆかりの作家の栗林今朝男(1924−2016)や油井正次(1908−1998)の作品を所蔵し、調査研究、展示を行っている。また、「北欧の灯り展 照明デザインから見る灯りの文化」(2019)や、「イン・ポライト・カンヴァセーション:礼儀正しい会話で―社会的実践:アメリカの現代美術―」(2023)など、現代美術、デザイン、工芸などの幅広い分野を扱った企画展を展開する。館の特色として、建築家・安藤忠雄による「人と自然の融合・調和」をテーマとして設計された端整な建築デザインと、町の環境を活用した作家支援事業の取り組みがあげられる。とくに、2007年からはじまったAIR(アーティスト・イン・レジデンス)は、国内外の作家が美術館近くの宿泊施設に数週間から数ヵ月にわたって滞在し、小海町の風土や町の人びとと交流しながら作品制作を行うもので、作家の新たな表現の場であるとともに、作家と町民をつなぐ取り組みとなっている。

ここで、小海町全体にも目を向けてみる。長野県の東部、いわゆる東信の南佐久地域に位置する小海町は、中央を南北に千曲川が流れ、美術館の位置する西側には、八ヶ岳連峰の裾野が広漠とした傾斜地として広がっている。東信地域は夏でも涼しく湿気の低い穏やかな気候で、なかでも松原湖高原は標高が1123m(松原湖)と高く、豊かな星空を観測することができる。また、海から遠く離れた地でありながら、「小海町」という名称にも注目したい。その由来については遡ることおよそ1100年前、平安時代に起きた巨大地震とそれに伴う周囲の山やまの大崩落によって千曲川が堰き止められ、いくつかの湖が生まれた。そして、そのうちの小さいものが「小海」と呼ばれ、地名として残ったとされる。町を訪れると、きっと雄大な自然の歴史が感じられるだろう。

ここまで、小海町高原美術館および町の特徴を記述したが、これらには密接なリレーションが存在している。たとえば、美術館の建築に着目すると、大きさの異なる3つの展示室にはそれぞれ天井まで届く大きな窓が設置されており、高原地帯に降り注ぐ自然光や豊かな自然風景を取り入れた設計となっている。さらに、この施設は眼前にせまる八ヶ岳、さらには北の先に位置する浅間山を望むことまでも計画されて建築されたという。松原湖高原の風土、自然と調和する建築、そこに多様な美術作品が一体となって、特色ある場が生み出されている。

くわえて、AIRなどの作家支援事業も地域との関係性が深い。美術館の学芸員は専門的な知識と地域ネットワークを活用して作家の調査・制作をサポートする。そこから、町内の小中学校との交流や町民に向けたワークショップなどの事業が展開されていき、美術館にとどまらず、町全体を包括した芸術普及活動が行われている。このように、小海町高原美術館は地域と文化活動を繋ぐ拠点として機能しており、建物を取り巻く環境や町の文化も含めて館の大きな魅力のひとつとなっている。

このたび、この小海町高原美術館に、島州一(1935−2018)、下平千夏(1983−)、細萱航平(1992−)の3名のアーティストの作品が展示される。1994年に東御市に移住し、アトリエ兼住居を構えた島州一は、2018年に没するまで絵画制作に励んだ。晩年の水彩によるシリーズ《Tracing-Shirt》は、生活の象徴であった浅間山の姿に自らのシャツを重ねて描いており、東信地域の風景が実直に作品と結びついている。下平千夏は、建築で学んだスキルを活用し、空間にゴムや水糸による線を巡らせて繊細な三次元空間を構築する。丘陵に建つ安藤忠雄建築の展示空間で、彼女の表現がどのように展開されるか興味深い。地質学を専攻した経歴を持つ細萱航平は、自然科学と芸術表現を組み合わせた独自の手法で作品を制作する。地史のような人間の時空間を超越した感覚を追求しており、小海町の土壌に新たな視点を生み出すのではないだろうか。

小海町高原美術館は「シンビズム5」に引き続き、会場館となる。自然、建築、そして地域とともに歩む人びとといった小海町の豊かな特性が、展示される作品たちと呼応する。やがてそれは美術館を中心に地域全体と連動し、鑑賞者に新たな芸術体験を提供することだろう。

東御市梅野記念絵画館 佐野 悠斗

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