MUSEUMS会場一覧
- 長野県須坂市大字野辺1386-8 Google Map
- TEL:
- 026-248-6633
- 休館日:
- 水曜休(祝日の場合は翌日)
- 開館時間:
- 9:00-17:00(入館は16:30まで)
※サテライト小展示を展開

ESSAYエッセイ
時代を超えた空間と現代作品―須坂アートパーク×シンビズム6
長野県須坂市は、フルーツの名産地として知られていますが、一方で歴史と文化の豊かな側面もあります。かつて製糸業で栄えたこの地には、明治から昭和初期にかけて建てられた豪壮な土蔵造りの建物など歴史的建造物が多く残り、現代家屋と溶け込むように大切に保存されています。このような文化的背景のもと「シンビズム6」の須坂会場として選ばれたのが、須坂アートパーク内にある「歴史的建物園」と「須坂版画美術館・平塚運一版画美術館」です。
須坂アートパークは、市の中心部から少し離れた静かな森のなかに位置し、地域文化の拠点として長く親しまれてきました。アートパーク内には、歴史的建物園や須坂版画美術館・平塚運一版画美術館のほか、世界の民俗人形博物館など複数の文化施設が集まり、地域の歴史と芸術が融合する場として、訪れる人々に作品鑑賞のほか、子ども向けのイベントやワークショップ、立地を生かしたクラフトフェアといった多彩な体験を提供しています。
とくに歴史的建物園は、須坂市内に点在していた歴史的価値の高い建造物を移築・復元した施設で、訪れる人びとに当時の暮らしや文化を肌で感じさせてくれます。園内には、それぞれ異なる時代背景や建築様式を持つ「寺子屋」「武家長屋」「曲屋(ルビ●まがりや)」の3棟が建ち並び、須坂の多様な歴史と空間を表現しています。
「寺子屋」は1865年に建てられた板倉雄碩(ルビ●ゆうせき)の旧宅で、2階の15畳間が私塾として使われていました。ここでは100人以上の子どもたちが読み書きや算盤を学び、教育の場として機能していたとされ、当時の教育の様子がうかがえます。また1階の常設展示では、板倉が学んだ西洋医学の影響なども展示を通して知ることができます。
「武家長屋」は、江戸時代後期の中級武士の住居の一部で、質素ながらも格式ある空間が当時の武士の暮らしを今に伝えています。屋根には須坂藩主・堀家の家紋が今も残り、往時の面影を感じさせます。
「曲屋」は、茅葺き屋根とL字型の間取りが特徴の民家で、江戸時代末期の建築とされています。すべて縄で屋根を固定する技法など民間の建築文化が色濃く反映されており、まるで時代劇の一場面に入り込んだ感覚を味わうことができます。
3棟の建物すべてにいえることですが、ただ古いだけでなく、生活の知恵や文化が息づいていることを実感します。
「シンビズム6」では、このような歴史ある建造物に3名の現代作家が空間に合わせた個性豊かな表現で魅せます。戸矢崎満雄氏は、ガラス絵の作品や、色と形の異なるボタンを用いた大掛かりなインスタレーション作品が特徴です。堀内袈裟雄氏は、アクリル絵の具や綿布を使い力強い構成が特徴的で、戦後前衛芸術運動に参加し、ニューヨークでの活動を経て地域の美術発展に貢献しました。木村不二雄氏は、草木染友禅の技法を用いた染織作家で、自然由来の染料にこだわり「現代の名工」にも選出されています。ノスタルジックな世界観が特徴的で、2017年には須坂市旧小田切家住宅で展示し、旧家と調和する独自の世界観を表現しました。
過去の暮らしを現代に伝える建物と、今を生きる芸術作品。それは時代を超えて表現の場となります。「保存」から「表現の場」へと変化することで、どのような化学反応が起こるのか? ぜひご覧いただき、五感で感じ取ってみてください。
世界の民俗人形博物館 五味 大樹